とグリムが、教室でトレイン先生の依頼をこなしていた頃。は学園長から似たような依頼を受け、図書室に赴いていた。
「なに、これ……」
 目の前に広がる光景に、は言葉を詰まらせる。学園長からは「図書室で本が散乱してしまっているから正して欲しい」と言わたので、てっきりたちと同じく書架整理を任されたのかと思っていたのだが……まさかこんなに荒れ放題になっているとは。本は学園長の言葉の通り、散り散りになり空中に漂っている。
「どうしてこんなことになってるの……?」
 試しに浮いている本を一つ手に取ってみる。なんの変哲もない風景写真集は、先ほどまで浮いていたとは思えないくらい"普通"の本だった。重さだって見た目通りだし、手を放したらまた浮くといった気配もない。
 ただそのままにしておくわけにもいかないので、とりあえず手当たり次第に回収するべきか。は浮いている本に手を伸ばした。
「うっわーなにこれ?!」
 先ほどの自分と全く同じ反応の声に振り返る。扉の前に立っていたのは、ケイト、リリア、マレウス、そしての四人だ。絶妙に謎な人選である。
「軽音部で今度使う曲の楽譜を探しに来たんだけど……そんな状況じゃないっぽい?」
「はい、実は今取り込み中で……それより、どうしてマレウス達まで一緒に?」
 軽音部の探し物なら、そこに居るのはカリムが自然なはずだ。そう言いたげなの視線を受け、まずはが口を開く。
「僕は課題で使った本を返しに来たんだ。その途中で三人に会ってね」
「カリムは補修中なんじゃよ。それでひとまず二人で探す事になったんじゃが、道中マレウスを見つけての。暇そうにしてたから連れて来たんじゃ」
 次いで、リリアがここに至るまでの経緯を説明した。だが言い方が気に食わなかったのか、マレウスは不機嫌そうな顔でこう付け足す。
「別に暇にしていたわけではないぞ。ガーゴイル研究会の日課である、校内のガーゴイル巡り中だった」
「そうなのね」
 同じ研究会に所属しているので、やっている内容は理解できる。だがそれと同時に、その光景が他者からどう見られているかも十分に理解していたは無難に頷くに留めた。
「今日は用事があると言っていたが、まさかこんな面倒事に巻き込まれているとはな」
「そうなるつもりはなかったんだけど……」
 今度は自身の状況について話を振られ、は学園長からの依頼の内容を話す。もはや詐欺まがいの内容に、四人は哀れに思ったのか協力を申し出てくれた。
「こんな光景、滅多に見れないしね~」
 ケイトはスマホを構えると、写真を撮ってマジカメにアップをする。
「ハッシュタグは、図書室なう、予想外の光景、ポルターガイスト?! あたりかな」
「ポルターガイストですか?」
「浮いてるって言ったら、ポルターガイストでしょ!」
「なるほど」
 言われてみれば、なんとなくゴーストの気配を感じる……ような気もする。ならばこの問題は、ただ本をまとめて回収するだけでは終わらないだろう。
「確かに、この気配はゴーストのようだね」
 ケイトの言葉に、も賛同する。
「この前対処した呪いの中に、ゴースト由来のものがあってね。その類に似た魔力を感じるよ」
「じゃがゴーストの仕業だとして、おぬしはどう対処するつもりじゃ?」
「悪戯ゴーストを見つけて、学園長に報告します」
 犯人が分かっているなら話は早い。は気持ちを落ち着かせて、本に残った魔力の残滓の気配を辿る。それは、少し離れたところにある本棚まで続いていた。
「ゴーストは……あそこ!」
 が本棚を指差す。すると、そこからゴーストと共に青白い炎が飛び出してきた。
「えっなんでこんなことに!」
「わわっ! 本が燃えちゃうよ!」
「安心しろ。僕が対処してやる」
 マレウスがマジカルペンを一振りすると、本棚の周りを薄い膜のようなものが覆った。これなら燃え移る事はないだろう。
「ならば、浮いている本の回収はわしらに任せておけ」
 リリアもマジカルペンを取り出すと、器用に本を回収していく。とケイトはリリアがまとめた本を、炎の届かない場所に集めた。
「ありがとうございます!ほら!観念しなさい!」
 も同じくマジカルペンを構え、炎を避けながら本棚へと近づく。炎の脅しが全く効かないとわかったゴーストは、今度は本棚の更に奥、壁の向こう側へと姿を隠してしまった。
「そんなの効かないわ!」
 は人形体からするりと飛び出し、そのまま壁へと突撃する。そして、壁をすり抜けてその向こう側に潜んでいたゴーストの腕を掴んだ。
「図書室を散らかした理由、聞かせてもらおうかしら?」


***


 ゴーストは無事学園長に引き渡され、四人の協力で本はあっという間に元の場所に戻された。
「ありがとうございます。お陰様で解決出来ました」
「どういたしまして」
「礼には及ばんよ」
「そうそう、結果的に早く目的の本を見つけられたしね!」
 ケイト手には当初の目的である楽譜集が収められている。先ほどの騒ぎの時に、散らばった本の中に入っていたらしい。
「僕もいい退屈しのぎになった。それに、お前はもうこれで依頼を終わらせることが出来たのだろう? ならガーゴイル研究会の活動が出来るな」
「そうね。お陰で早く終わったわけだし」
「では早速行くとしよう。まずは校舎の北側からだ」
「わかったわ。じゃあ私は行きますね。先輩、リリア先輩、ケイト先輩、本当にありがとうございました」
 急いで会釈し、はマレウスの後を追う。その姿を見守りながら、残った三人はぽそりと呟いた。
「……ガーゴイル研究会って、実際の所なにしてるんだろうね」
「さぁの」
「うーん……」
 巷では散歩部と噂されている二人がこの後何をするのかは、いくら図書室で調べてもわからないに違いない。