あれから一か月弱。ハロウィーンウィークを八日前に控え、ハロウィーン運営委員が学園長の号令で講堂に集められていた。
「全員集まりましたか?」
「ポムフィーレはみんな揃ったわ」
「ハーツラビュルもオッケー♪」
ヴィルの隣にはエペル、ケイトの隣にはリドルとデュースが座っている。中でもデュースは予定時間の一時間前からこの場で待っていたらしい。その隣に居るジャックも、割と早い段階から待機していたようだ。
カリムの隣にはアズールとジェイドが陣取り、少し離れた場所にはなんとイデアの姿も見受けられた。
「おや、イデアさん。今日は珍しくタブレットではなく生身での出席なんですね」
「ひひひ……今日は後ほど見せたいものがありますからな!」
普段ならこのような場所には絶対来ないのに、ハロウィーンは特別なのか出席している。しかし案の定と言うべきか、もう一人の欠席常連はこの場に居なかった。
「あれ? マレウスがまだ来てないんじゃない?」
は周囲を見渡すが、マレウスの姿はない。
「あやつのことは今シルバーたちが探しておる! もうすぐ来るはずじゃ、しばし待たれよ」
だはリリアはもう慣れっこなのか、特に驚くこともなく答える。それはここに居る他のメンバーも同じで、反応はいたって淡泊なものだった。
「……待たせたな」
すると、奥の扉からマレウスが顔をだす。どうやら間に合ったらしい。
「おお、来たか。思ったより早く見つかってよかったよかった」
「えー……では、これよりハロウィーン運営委員の会議を始めます。では運営委員長のシェーンハイトくん! いつも通り進行をお願いします」
「はい」
ヴィルは教壇の上に立つと、資料を片手にスタンプラリーの実施事項を確認していく。
「『ハロウィーンウィーク』の間、一般客向けに開催されるスタンプラリーでは……七つのスタンプを集めた客に、お菓子をプレゼントすることになっているわ」
本来ならオンボロ寮も含めた八つ分を用意すべきなのだが、学園長の事前通達がなかったせいで用意が間に合わなかった。なので今回は、スタンプラリー会場となっている点も考慮しディアソムニア寮との合同参加という形で落ち着いた。ちなみに実行委員として選出されたのは、今この場に参加しているだ。
「ハロウィーンはたくさんの地元のお客さんが来るのにプレゼントだなんて……さっすが学園長、太っ腹~♪」
ケイトは素直に学園長を褒めるが、すかさずジェイドが余計な一言を付け加える。
「一つ約百マドル未満の小さな袋詰めキャンディですけどね」
「大事なのは感謝の気持ちなんです。気・持・ち!」
「アンタたち、話の腰を折るのはやめなさい。続けるわよ?」
学園長もまとめて一喝し、ヴィルは説明を続ける。
「スタンプラリーの実施時間は朝十時から、夜二十二時まで。その間、スタンプラリー会場は無人にしないこと。会場に来た参加者にスタンプを押すためよ。スタンプ係は授業も免除されるわ。長丁場だけど、各寮で交代しながら対応するように」
ハロウィーンだからといって、本業である学業を疎かにすることはできない。普段通りの姿をみせることも、このイベントの大事な側面なのだ。
「寮に戻ったら、即シャワー浴びてダッシュで寝ねえと一週間もたねぇな」
「二十二時とか……そっからが一日の本番の時間でしょ」
規則正しい生活を心がけるジャックとしては、そんな時間まで起きていること自体がまれだ。しかし完全夜型のイデアからすると、その時間で就寝するのは信じられないのだろう。健康優良児とインドアオタク、まさに両極端の反応だ。
「この一か月間……やることが多くてめちゃくちゃ大変でしたが、明日からも気合いれて挑まないといけないっすね」
デュースは拳を手のひらに打ち付け気合いを入れ直す。
「確かに目の回る忙しさじゃったのう」
実行委員は会場の設営に加えて、来場者を迎えるための仮装も準備しなければならない。だが準備期間は授業や課題の免除は無いし、同寮の生徒に指示を出しまとめあげ、その間にこういった会議に出て報告をして……とにかく尋常じゃないくらい忙しかった。
「はあ……衣装の準備、すごく大変だったなあ」
特にポムフィーレ寮では運営委員長でもあるヴィルの衣装への拘りが強く反映されたらしく、相当の時間をかけて丁寧に制作がされたようだ。それを思い出したエペルは疲労を顔に滲ませているが、口調はどこか誇らしそうでもある。
「みなさんのその表情を見るに……どうやら自分たちの仕事に自信たっぷりのようですね?」
それを察した学園長の言葉に、みなは力強く頷く。心血を注いだハロウィーンの舞台や仮装に、よほど自信があるのだろう。各々が自寮の注目ポイントを述べると、ヴィルは挑発的な笑みを浮かべた。
「フン、そうこなくちゃね。それじゃあ……今から各寮が用意したスタンプラリー会場と仮装を、拝見させていただくとしましょう。中途半端なものをみせたら容赦しないわよ。みんな、準備はいい?」
「おー!!」
見事に揃った掛け声に、感極まったであろう学園長の目には涙が浮かんでいる。普段は見せないやる気のある姿が、よほど嬉しいのだろう。
「ではまず、ディアソムニアが準備したスタンプラリー会場の様子を見に行きましょうか。事前に提出してもらった資料によると、ディアソムニア寮の選んだ場所は……」
「オンボロ寮だ」
学園長の言葉を引き継ぎ、マレウスは待ってましたと言わんばかりに答える。
「ハロウィーンにふさわしい廃墟はあの場所しかないとずっと思っていた」
「っ!! ………」
マレウスの発言に対して思うところがあるが、さすがにこの場で文句を言うのは気が引けるのだろう。はぐっと拳を握りしめて我慢しているように見える。
「どんまい……」
そんなに、デュースは小さく同情の声をかけた。
***
最初にハロウィーン実行委員が向かったのは、ディアソムニア寮のスタンプラリー会場であるオンボロ寮だ。そこにはオンボロ寮の面影はほぼ無く、異国情緒にあふれた装飾が至る所に施されている。
「ようこそいらっしゃいました。学園長、そしてハロウィーン運営委員の皆様」
「マレウス様たちの仮装の支度が済むまで、少々お待ちください」
「はーっはっは! よく来たな人間ども! マレウス様率いるディアソムニアのハロウィーンを自ら称えに来るとは、良い心がけだ!」
礼儀正しく迎え入れる、シルバーとは対照的に、セベクは自信たっぷりな面持ちで運営委員に声を掛ける。
「セベククン……いつも、元気だね」
「マレウスはこのキュウリに礼儀を教えていないのかしら」
「すみません。どうやらハロウィーンでいつも以上にはしゃいでいるようです」
エペルはオブラートに包んだ感想を述べるが、ヴィルは容赦なく不快感を述べる。そんな二人にシルバーが謝罪すると、セベクは不満を露わにした。
「はしゃいでなどいない。事実を言ったまでだ!」
「オンボロ寮からは、ちゃんが参加してるんだよね? 合同って言ってたみたいだけど」
シルバーに噛み付いているセベクを横目に見つつ、に声を掛けるケイト。
「はい。学園長が何も連絡してくれなかったので、事前準備が出来なくて……でもディアソムニア寮がここを使うって話だったので、それなら一緒に参加すればいいって話になったんです」
自身の不手際を改めて言及された学園長は、居心地が悪いのかそそくさと距離を取った。
「入口に置いてあるカボチャは、オレ様たちが準備したんだゾ!」
「わたしもおてつだいしました。だからちゃんと合同です」
どうだと言わんばかりにどや顔を披露するグリムと胸を張るの隣には、なんとも愛嬌のある顔のジャック・オ・ランタンが飾ってある。これは一か月前にが購買で買った種から育ったもので、彼らの魔力を糧に大きくなったものだ。当然中身をくり抜いたのもオンボロ寮の面々で、中でもこれは自信作らしい。
「人間たちが作ったにしては上出来だが……我らディアソムニアの飾りつけに比べればまだまだだな。それにこれからご登場されるマレウス様とリリア様のお姿を見れば、貴様らにも格の違いがわかるというもの!」
「セベク、あまりみなを困らせるな。当然のことを言われては、反応に困るだろう?」
「はっ、若様。もう仮装がお済みですか」
マレウスの声にセベクは背筋を伸ばし、咳ばらいをする。そして、高らかに声を張り上げた。
「みなの者、刮目せよ! これぞ我がディアソムニアの寮長マレウス様がお考えになった……ハロウィーンの仮装である!!」
マレウスとリリアの衣装は、一見すると東方の伝統的な衣装に見えた。だがリリアの帽子には金色のツノ、後ろには立派な尻尾が付いている。ちなみにマレウスはその部分を自前のツノと尾で賄っていた。
「僕たちの仮装のテーマは〝龍〟だ」
リリアが以前東方を旅した際に見聞きした〝一族の守り神をしている龍の伝説〟。それを基盤に、色彩豊かで人目を引くような斬新なデザインを取り入れたのが今回の仮装だ。龍とドラゴンの差異を踏まえたデザインは、マレウスの拘りが随所に表れている。派手だが統一感のある衣装はヴィルにアドバイスをもらったというだけあり、世間一般の『ゴーストが怖がるゴースト』の衣装よりも華々しく、会場の雰囲気ともよくマッチしていた。
「そして私のテーマは〝偉大な魔法士の使い魔〟です!」
一方は、小悪魔のようなデザインの服と山高帽を身に着けている。グリムに似た耳と尻尾が付いているので、オンボロ寮としての統一感はあるが……マレウスたちのものと違い、仮装だけなら会場の外観とはミスマッチしていた。
「最初は合同だから、ディアソムニア寮と同じデザインにするって話もあったんだけど……ゴーストさんたちと話し合って、別のコンセプトを加えたデザインにすることにしたんです」
「東方から来た龍が休憩に選んだ場所は、かつて偉大な魔法士とその使い魔が住んでいた幽霊屋敷。そこには魔法士の魂が眠っており、それを守る使い魔が夜な夜な徘徊している……って感じの物語を込めました」
の言葉を引き継ぎ、設定の補足を入れる。この設定ならオンボロ寮本館の外観を活かすことが出来るし、ゴーストが共に参加することも可能だ。
「もちろん、オレ様が大魔法士なんだゾ!」
「グリムさんがどうしてもそこはゆずってくれなかったので、さんはグリムさんに近いデザインのつかいまになりました」
「コンセプトの違う二種類の素材にストーリーを追加することで、設定を地続きにしたってことね。フヒヒ、氏はコラボの方法をよくわかってますな」
そういった創作に造詣の深いイデアは、たちの言葉に納得の意を示す。他の生徒からもどうやら好印象なようで、取り組みとしては上手くいったらしい。
「衣装もいいけど……真っ赤な龍が派手でかっこいい!!」
エペルが興味を示したのは、巨大な赤龍のハリボテだ。スタンプラリー会場の目玉なだけあり、一際目を引く存在感を放ってる。
「くふふ。そうじゃろうそうじゃろう。なんせ自信作じゃ! ランタンも、雲も、龍も全て魔法で浮かせておるから、見ごたえ十分じゃぞ。ちなみに炎も全て魔力で灯す予定じゃ」
ゆらゆらと揺れる炎は本物の炎でなく、魔力に由来するもの。なので火災の心配はない。
「簡単に言うけど……あのランタン、相当な数があるわよね? それを浮かせつつ火を灯し続けるだなんて大変じゃない? 他の寮では真似出来ない芸当だわ」
リリアの発言に対して疑問を述べるヴィル。実際にはランタンだけでなく、庭に飾ってある全ての設備を魔法で管理するのだ。その労力は並大抵のものではないだろう。
「多いといっても向き不向きがありますので。そこは個々の能力を活かして各所へ割り振りました。授業等での交代や休憩も含め完璧ですので、期間中ランタンから灯火が消えることはありません」
「なるほど。さすが実践魔法の得意な生徒の多いディアソムニアのハロウィーンといったところね」
疑問に対してよどみなく回答をしたに、ヴィルは納得の意を示した。
「豊富な知識を取り入れ、熟練の魔法で実現する……実にディアソムニアらしい、『魔法士養成学校』のお手本とも言えるようなハロウィーンです! それに本来あるものを活かし、組み合わせるアイデア力は目を見張るものがあります。オンボロ寮も、頑張りが良くでていますよ!」
学園長からの評価も概ね好評なようで、トップバッターとしては上々の滑り出しだ。
「それでは次に行きましょう。次は…ハーツラビュル寮のみなさんが選んだ植物園が近いですね」
こうしてハロウィーン実行委員は、順番に各寮のスタンプラリー会場を見て回った。