思い思いの時間を過ごし、心行くまでハロウィーンパーティーを楽しんだ後。
「ふな~~……オレ様、踊って、飯食って、踊って、飯食って……疲れてきたんだゾ。ずっと起きてたから、もう眠くて眠くて……ぐう……」
グリムは目を閉じながら、それでもなお料理を食べようと口を動かす。途中からは寝言だったようだが、夢の中でも食い意地の悪さは健在らしい。
「なんつー寝言だよ」
エースは苦笑しながら、グリムを料理から引き剥がす。
「でも、確かに疲れてきたかも。今何時かな」
「正直、僕も眠いと思っていたところだ。ゴーストの世界で、どれくらいの時間が経ったんだろう?」
の言葉に頷くデュースも、グリム程ではないが随分と眠そうだ。一度就寝しているとは言え、その後休みなしでゴーストの世界を走り回ったのだ。さすがに皆限界が来ているようで、辺りは微睡みの空気に包まれていた。
「楽しいときも、永遠には続かないもの……」
「名残惜しいですが……そろそろお開きにせねばなりませんな」
それに気づいたゴーストは、ハロウィーンパーティーの終わりを告げる。すると先ほどまで響いていた音楽は鳴りやみ、テーブルの上に並んでいた料理が瞬く間に姿を消した。
ハロウィーンの装飾も全てなくなり、ホールはミラーボールとパイプオルガンのみの殺風景な場所に変わる。まるで先ほどまでのパーティーが、幻だったかのようだ。
「ゴーストたちよ……今宵のパーティー、満足できたか?」
元々このパーティーは、ナイトレイブンカレッジのハロウィーンに参加出来なかったゴーストを慰めるためのもの。
一番喜んでもらいたい相手が満足したか、ずっと気になっていたであろうマレウスは、ゴーストに問いかける。すると、ゴーストは満面の笑みを浮かべてこう答えた。
「もちろんでございまする!!!」
「こんなに楽しいハロウィーンパーティーは、生まれて……からそのあとも通して、初めてだったよお~!!」
「良かったわね、マレウス」
ゴーストの言葉を受け、嬉しそうに微笑む。彼女もまた、マレウスと共にこのパーティーを企画した発起人。きっと同じような気持ちを抱いていたのだろう。
「貴方のやったことは、間違いじゃなかったわ。だってこんなにたくさんの人やゴーストが、喜んでくれたんだもの!……まあ、途中でいろんなアクシデントがあったのは否めないけど……それでも、思い出に残る本当に素敵なパーティーになったわ。だから大成功ね!」
「ああ。お前たちにも礼を言うぞ。リリア、、。それに、この場に集まった全員にだ。お前たちのお陰で、良きパーティーになった」
ナイトレイブンカレッジを混乱の渦に巻き込み、時を止めるという大掛かりな魔法まで動員した今回の騒動。みな散々な目に遭ったことは否めないが、それ以上に特別な時間を過ごせたのは言うまでもない。終わり良ければ総て良し、とはよく言ったものだ。
「ボクたちも、とても楽しい夜を過ごせたよ」
「名残惜しいけれど、「もう少しだけ」と惜しまれながらの幕引きが、一番美しい」
「貴重な機会をくれたこと、感謝する」
リドル、ルーク、シルバーは各々ゴーストに気持ちを述べる。ゴーストは感極まったのか、瞳に涙を浮かべながら目一杯頷いた。
「こちらこそ、ほんとうにありがとう!ここでゴーストの友だちもできたし、もう寂しくないよ!」
「ボクも新しい主様ができたニャ!ありがとニャ!」
の人形に憑依していた猫のゴーストは、嬉しそうに他のゴーストに擦り寄る。それぞれが抱えていた問題も無事解決出来たし、これなら安心してお開きにすることができるだろう。
「今年のハロウィーンのことは、ずっとずーっと忘れませぬ。……キミたちも忘れないでおくれ」
「いつか絶対に、また会いましょう~~~~!」
「さようなら~~~~!」
先ほどの料理や飾り付け同様、ゴーストたちはあっという間に目の前から消える。それを見届けた後、マレウスはこの場に残った生徒に向けて声を掛けた。
「では僕たちも元の世界に帰るとしよう」
「帰り道は知っているのかい?」
ルークの問いに、マレウスは頷いてミラーボールを指差す。
「もちろんだ。皆、頭上のミラーボールを見ろ。決して目を離すなよ……それっ!」
言われた通りにする一同。すると、ミラーボールの輝きが増して辺りが光に包まれた。それはあっという間に視界を覆い、目を開けていられなくなる。思わず目を瞑れば、身体が浮遊感に包まれ……気がつくと、生徒たちはみな鏡の間に降り立っていた。いきなり地面が硬くなったことで体制を崩した一部の生徒は、折り重なるようにその場に倒れこむ。
「いてて……尻餅付いた上に、乗っかってきたトレイ先輩が重い!」
「悪い悪い、急だったから上手く立てなくてな」
トレイは急いで立ち上がると、エースに手を差し伸べる。
「チッ、もっとまともな移動方法はなかったのか?」
レオナが不満を漏らすと、同じように鏡から放り出された生徒たちはみな頷く。一斉に移動させる必要があったとはいえ、いくらなんでも大雑把過ぎる。だがマレウスは全く気にしていないのか、一人優雅に鏡の間へ降り立った。
「いきなり行方不明の生徒と、ハロウィーンを終わらせ隊みんなが鏡から出てくるなんて、どうなってるんです?!全員無事に戻ったんですか!?ドラコニアくん、説明してください!」
早口でまくし立てる学園長に、マレウスはひと仕事終えた満足そうな顔で頷く。
「もちろん全員学園に戻したぞ。きちんと確認したゆえ間違いは無い」
「戻した?いったい闇の鏡の向こうで、なにが……」
「それよりハロウィーンはどうなった!?」
「確認しに行こう!」
トレインは近くに居たリドルとルークに問いかけるが、二人はその声に答える前に外へ行ってしまう。その後に続いて、他の生徒も一様に校外へと向かう。今はそれよりも、この長い夜が終わったかどうかを確かめることが最優先だ。外に出ると、辺りはまだ薄暗い。だが正門に辿り着く頃には、空が白んで丁度朝日が昇ってきた。
「日の出ってことは……今日は11月1日!?」
各々持っていたスマートフォンに目を向けると、11時59分から時計が進んでいた。辺りはどんどん明るくなり、朝の陽ざしが校舎を眩しくを照らす。
「ハロウィーンが……終わったんだ~~~~~!!!!」
全てを放り出す勢いで飛び上がる一同。皆手をとって喜んでいると、学園長たちが慌てて走って来るのが見えた。
「はあっ……はあっ……やっと追いついた。さっぱり話が見えません!きちんと説明してください!」
その後から走ってきたサム、トレイン、クルーウェル、バルガスも皆、未だに状況が掴めずにいる。ゴーストの世界から学園側に連絡を最後に取ってからも、時計は11時59分のままだった。しかし体感では相当時間が経っているのだ。心配するのも無理はないだろう。
「……話せば長いことになるよ。今はそれよりも、全員に休息が必要だ」
しかし今は、生徒たちにそこまで気遣えるような余裕はない。長い長い夜が明け、ようやくこちらの世界へ戻ってこれたのだ。ルークがそう学園長に告げると、シルバーも頷いて言葉を続ける。
「一つだけ言えることは……俺たちはただ、“全員”でハロウィーンを楽しんだんだ」
「うん、忘れられないハロウィーンになったね」
「全くわかりませんよ!」
各々納得する生徒たちと、未だに状況が読めない教師陣。その溝を埋める為にもまずは休む事が優先され、結果的に11月1日は休校になった。