「わあ~~!ミラーボールがもとに戻っているわ!」
「まさかもう一度この輝きを目にすることができるとは……!見ているだけで楽しくなってくるわい!」
 ミラーボールの輝きに釣られ、ゴーストが続々と集まってくる。ナイトレイブンカレッジの生徒に憑依していた者を含めると、今やその数は千を越える勢いだ。
「ええ!これなら、最高のハロウィーンパーティーができそうでございまする!」
 ナイトレイブンカレッジのハロウィーンに参加し損ねたと泣いていたゴーストは、笑顔を浮かべてミラーボールを見つめる。しかし。
「………」
 黙ったままこちらを見つめる生徒たちの視線に気づくと、申し訳なさそうに俯いた。
「……も、もしや、このように面倒を起こしたわたくしたちとは……パーティーなんて、したくない……?」
「む、無理もない。説明する間もなく、襲いかかられたとはいえ……こーんなにたくさんの生きた人間たちを巻き込んで迷惑をかけてしまったのは、事実だもんねえ……」
 しょんぼりと肩を落とすゴーストたちに、シルバーは優しく声をかける。
「お前たちだけが悔いることでは無い。お前たちに優しい心を持って接することができなかった、俺たちも悪かったんだ。俺は友好の印に、ゴーストたちと一緒にパーティーを楽しみたい」
「本当でございまするか!」
 ゴーストたちは顔をあげると、瞳に浮かんでいた涙がミラーボールに反射して煌めいた。
「ああ。それに、みんなで力を合わせて試練に挑んだ今日この日を……嫌な思い出で終わらせたくない。「ハロウィーンはみんなで過ごす楽しい日」……俺は、父にそう教わった」
 シルバーの言葉に、うんうんと頷くリリア。その目にはゴースト同様、うっすらと涙が浮かんでいる。
「ああ、シルバーくんならきっとそう言うと思っていたよ!私もムシュー・お寝坊の意見に賛成だ。お互いの誤解が解けた今、共にパーティーを楽しむのは、仲を深める絶好の機会だと思っているよ」
「……ボクも同じです。もうハートの女王の法律・第五十三条『盗んだものは返さねばならない』は、守ったようだしね。それに、一方的にゴーストに襲い掛かった暴君だという汚名を着せられたままではたまらないよ!」
 ルークの言葉に、リドルも賛同の意を示す。ゴーストによって憑依されていた者たちも皆、思うところはあれど同じ意見だった。色々大変なことはあったが……ゴーストの世界でハロウィーンパーティーを行う経験など、それこそ生きているうちには絶対に出来ない。それに、閉門前に学園に来た彼らはれっきとした“ゲスト”なのだ。ここで彼らを無下にしては、ナイトレイブンカレッジの名が廃る。
「それじゃ、みんなでパーッと盛り上がろうではないか!」
 リリアの号令を受け、楽器を持ったゴーストがパイプオルガンの周りに集まってくる。リリアも同じように五弦ベースを携えると、高らかにそれを掲げた。
「私たちも頑張らなくちゃ!グリムとは手拍子をお願いね」
「オレ様のテンポに合わせて踊るんだゾ!」
「グリムが曲のテンポの合わせるんだよ」
 は電子ピアノの前で準備をすすめるが、グリムとは特に楽器の練習はしていないので手拍子のみだ。だがそれでもグリムは十分楽しいようで、音楽が始まる前からぴょんぴょんと軽快に跳ね回った。
「練習の成果を見せてやらねばな。さあ……夜が明けるまで踊ろう、ハロウィーンダンスパーティーの始まりだ!」
 マレウスはパイプオルガンの前に腰掛け、鮮やかな音色を奏でだす。だがそれは先ほどの重々しい曲調とは打って変わり、明るく華やかなダンスミュージックにアレンジされていた。思わず体が動き出す、そんなサウンドだ。ゴーストが自由に躍りだすと、次第にナイトレイブンカレッジの生徒達もリズムを刻んで体を動かし始める。
「ああ……こんなに笑ったのは何百年ぶりだろう。ハロウィーンが楽しいなんて、生きていた頃以来だ!」
 ゴーストたちと手を取り合い、共にダンスをする生徒たち。思い思いに歌い、踊り、時に食事を楽しみながら談笑に興じる。死者と生者の垣根を越えて、輝きの間に居る者の心はいつの間にか一つになっていた。