どうにか誤解を解き、全員がホールの中央に集まった後。マレウスは一連の事件への謝罪を述べた。
「どうやら手違いがあったようだな。本来ならゴーストの世界を観光しながら、みな楽しく『輝きの間』に来る予定だと聞いていたのだが……まさかそんな苦労をしていたとは。僕からも、迷惑をかけたことを詫びよう」
本人は本気で楽しんでもらえると思っていたようで、しょんぼりとした顔をしている。そんなマレウスに、は優しく声を掛けた。
「迷惑を掛けちゃったのは良くないけど、それは貴方だけのせいじゃないもの。それに、時間がなかったんだもん仕方ないわ」
なんせ当初のタイムリミットは日付が変わる11時59分までの二時間弱だったのだ。そこから計画を立て、実行に移すまでは本当にせわしなかった。
「楽しく……と言うなら、何故マレウス先輩はあんな真似を?それなら最初から素直に迎え入れていれば、話は拗れなかったと思うのですが……」
リドルの問いに対して、代わりに答えたのはだ。
「当初想定していたシナリオとかなり齟齬が出たので、路線変更になったんです。私が途中でゴーストに乗っ取られたふりをして、先輩を拉致してこちらに来たのを覚えていますか?」
「あの時はとってもびっくりしたよ!まさか・さんまで取り憑かれちゃうなんて!って思ったもん!」
「本来なら、あのまま皆さんをこの部屋に誘導する手はずでした。ですが、かなり拗れてしまいましたので……計画を練り直すのに、一緒に離脱しました」
そこで新たな計画を立て、リリアの提案で悪の帝王と四天王による、ゴーストとの最終決戦が採用されたのだと言う。
「僕は“悪の帝王”のゴーストが取り憑いた演技をして欲しいと頼まれていた」
「わしは腹心じゃ!いざとなったら、マレウスを庇って華麗に散る役じゃぞ!」
「私は……セ、セクシー担当……でした……」
ノリノリで答えるリリアと対照的に、は顔を逸らして答えた。しかしよほど恥ずかしかったのか、耳が赤くなっている。
「僕はオレ様一匹狼だよ。身近に参考になる相手が居たから、やりやすかったかな」
は具体的な名を挙げなかったが、大半の生徒はそれが誰かを察した。そんな空気にレオナだけが、不機嫌そうに尻尾を揺らす。
「私は特に役はなかったんだけど、この子がやりたいって言ったから……代わりに戦ってもらったの」
が足元で寝そべっていた猫のゴーストに視線を向けると、猫は構ってもらえると思ったのか人懐こく擦り寄ってきた。この猫は生前野良暮らしで、一度誰かに温かい手で撫でて欲しかったらしい。そこで普段から出入り可能なが、体を貸すに至ったのだそうだ。
「うーむ……人が消え、招待状が贈られ、ゴーストの世界に飛ばされ、ゴーストに脅かされた。状況証拠は揃っていた。だがその一方で、我々が先入観に囚われ、力に訴えてしまったのも事実……」
ルークは今まで起きたことを一つ一つ挙げていく。そして最後にマレウスに視線を向けると、清々しい笑顔を向けた。
「マレウスくんや、ゴーストだけを責めるのは、ナンセンスだね。それに、問題があったとは言え、我々は協力してここまで辿り着くことが出来たんだ!今はその事実を、喜ぼうじゃないか!」
「そうだな。力技で解決した部分も否めないが、俺たちは皆ここに集まることが出来た……ハッまさかマレウス様たちは……俺たちに力だけでなく協力して挑むことを教えようと……?」
「どうして君はそう素直なんだ?そんなわけないだろう!」
シルバーのプラス思考すぎる発言に、突っ込みを入れるジャミル。途中で路線変更したと言っていたわけだし、流石にそこまで考えてはいないだろう。というか、絶対に違う。
「それより先輩がた、俺たちが集めたこれは一体なんだったんですか?これもゲームのヒントだったと?」
ジャミルは道中集めた鏡の欠片を取り出す。合計四班に分かれてくまなく探していたお陰もあり、それはかなりの数が集まっていた。
「ああ、鏡の欠片か。それは本当に必要としていたものだ。ゴーストたちに集めさせていたのに、お前たちがこんなにたくさん拾ってきてくれるとは……見つけるのに苦労しただろうに。褒めてやろう」
マレウスの素直な称賛に、ジャミルは思わず顔を背ける。拾っただけならまだしも、シルバーを騙してまでゴーストから強奪したものが大半など口が裂けても言えない。他のメンバーに関してもだいたい同じような集め方をしていたせいか、各々バツの悪そうな表情を浮かべていた。
だがマレウスはそれに気づかず、集まった鏡の欠片を確認する。どうやら必要な数だけ揃っていたようで、最後は満足げに頷いた。
「ふむ。これで盛大にハロウィーンパーティーを執り行えるな」
「鏡の欠片とパーティーに、どんな関係があるんだい?」
ルークは不思議そうにそれらを眺めるが、エースは道中レオナから聞いた話を思い出し、背筋を震わせる。
「ま、まさかレオナ先輩の言う通り、危険な魔法道具を復活させるつもりとか……!?」
「ククク……いいだろう。今こそお前たちに、真実を明かそう……」
マレウスは先ほどまで演じていた“悪の帝王”のような表情を浮かべると、鏡に魔法をかけた。鏡が縦横無尽に飛び回ると、動きに合わせて月明かりが反射して不気味に輝く。
「さあ、鏡の欠片よ……あるべき場所へ、あるべき姿へ戻れ!『輝きの間』よ、今ここに蘇るがいい!」
「うわあっ!?」
瞬間、鏡が一斉に集まり輝きを増す。マレウス以外の一同は思わず目をつむり、光が落ち着くのを待った。だがいつまで経っても、煌々とした灯りが消えることはない。それどころか、光は白から七色に変わって鮮やかに明滅までしだした。
「んんっ!?頭上のあれは……!」
ルークの声を聞き、皆はゆっくりと目を開けそちらに視線を向けると──そこに浮かんでいたのは、七色に輝くミラーボールだった。
「これぞ『輝きの間』の真の姿だ……とはいえ僕もゴーストたちから話を聞いただけで、見たのは今が初めてだ」
マレウスがゴーストから聞いた話によると、この広間はかつてゴーストたちの社交場だったのだそうだ。かつては光に満ち、笑い声の絶えない賑やかな場所だったが、ある日はしゃぎ過ぎたゴーストによって壊されてしまったらしい。それからというもの、どのようなパーティーを開いても以前のように盛り上がることが出来ず、いつしかゴーストたちが集まることもなくなり……最終的にすっかり寂れてしまったのだそうだ。欠片を集めようにも数が膨大だし、ゴーストの世界各地に散り散りになったそれを集めるのは至難の業だ。そうして欠片は、長らく放置されていたのだという。
「ゴーストたちは欠片を集めるのを諦めていたが……今回たくさんのゴーストを招待するにあたり、鏡の欠片を持参するように言えば数が集まると思ってな。僕が呼びかけたんだ」
「じゃあ鏡の欠片って……ただのミラーボールのパーツだったってこと!?」
「はあ~?誰だよ、超ヤバい魔法道具のパーツかもって言ったヤツ!大袈裟すぎ~!」
エースとフロイドは、同時にレオナの方へ顔を向ける。レオナがとても真剣に話していたこともあり、てっきりそういう代物だとばかり思っていたが……蓋を開けたらなんてことない、本当にただの鏡の欠片だったとは。視線を感じたレオナは、ミラーボールから思い切り目を逸らした。
「僕はゴーストたちがお祭り騒ぎをするのに使うものかもって、ヒントを出したんだけどね」
「……忘れろ。今すぐに、全部だ」
更には追い打ちをかけるようなの発言を受け、レオナは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。