ゴーストたちが事の発端を話し終えると、それをリリアが引き継ぐ。
「マレウスとにその話を聞いて、わしもぜひにと思って賛同したんじゃ!」
 その時偶然一緒に聞いてしまったも否応なしに巻き込まれ、オンボロ寮のゴーストや、グリムにも声を掛け……最終的に、このような形になったのだという。
 リリアの説明の後、は申し訳なさそうに別室から顔を出した。
「お久しぶりです……」
!じゃあお前たちは、自分からゴーストの世界に……?」
「おうっ!うめえモン食わせてやる、って言われて付いてきたんだゾ!」
「……っはあ~~~~~~~。お前ら……オレが、どれだけ心配したと思って……!!」
 エースは脱力した後、を睨みつける。まさに監督不届き、とでも言いたいのだろう。
「ご、ごめんってば……グリムだってノリノリだったし……とツノ太郎に協力したくて」
「そうよエース。巻き込んだのは私だから、は悪くないわ」
 はエースの追及を阻むように、の前に立つ。そんな姿に完全に毒気を抜かれたのか、エースはもう一度い大きなため息をついた。
「では、ゴーストたちとマレウスくんたちは、ただハロウィーンパーティーをしたかっただけだと?」
 ルークの問いに、マレウスは当然だと頷く。
「そう招待状に書いただろう。リリアに届けに行かせたはずだ」
 どうやらトレイ達が最初にオンボロ寮で遭遇した影はリリアのものだったらしい。今思い出してみると、背格好と素早い身のこなしがリリアに見えなくもなかった……気がする。だが当時はそれどころではなかったので、どちらにせよ気づけなかっただろう。
「えっ、じゃあオンボロ寮の門に挟まっていたカードは、マレウス様がお作りになったもの!?あわわ……僕はそうとも知らず……げ、げげっ、下劣などと……このセベク、伏してお詫び申し上げますううう!」
「いやあ、アレはしょうがないだろう……俺だって、犯行声明に違いないと思ったぞ」
 平謝りするセベクをトレイは擁護するが、セベクは聞く耳を持たない。言葉の通りその場で土下座すると、マレウスに向かって必死に謝罪を述べ始めた。だがマレウスは良く分かっていないようで、不思議そうに首を傾げる。
「犯行?なぜそのように物騒な発想になるんだ」
「もぬけの殻になった建物の門にあんな置き手紙残されてたら、普通そう思いますよ!それにゴーストの奴ら、オレたちに襲い掛かってきたんすよ?なにがハロウィーンパーティーだよ。敵意むき出しじゃん!」
 エースの主張に、道中同じ目に遭遇したフロイドとレオナは頷く。確かに招待状には、一緒にパーティーを楽しもうとの記載があった。だが彼らの行動は、どう考えても楽しむには結びつかないのだ。
「それに関しては、双方に食い違いがあったようじゃ。詳しくはおいおい話すとして……それより今は、を助けてやらんとの。今頃運営委員との闘いで、疲労困憊しているはずじゃ。グリム、。誤解を解くのを手伝ってくれ」
「ふな~オレ様を引っ張るな~~!」
 リリアは二人の腕を掴むと、未だに戦闘が繰り広げられているホール入口へと向かった。


***


 『ハロウィーンを終わらせ隊』が事の発端をマレウスたちに聞かされる少し前。
 実行委員の生徒と、ゴーストに取り憑かれた生徒の戦いを任されたは、自身も憑依された“フリ”をしながら必死に頭を巡らせていた。
「お前たちは右から、こっちは左からの攻撃に備えて防衛魔法を張れ」
「わかりました!」
「寮長たちに連携を取られると厄介だ。残りは奴らを分断しつつ戦力を削げ」
「ひいい~!ヴァンパイアの衣装を身に着けた相手と戦っていた三名が戦闘不能になったぞ!」
「意識を失った相手には、さすがに追い打ちをかけないだろうからな。ひとまず放っておけ。お前らの身の安全が最優先だ」
「りょっ、了解です!」
 はゴーストの報告を聞き、てきぱきと指示を出す。だが憑依された生徒と、実行委員の両名が怪我をしないよう細心の注意を払いながらこの大人数を一人で動かすのは、さすがに骨が折れた。
(……せめてリリアかあたりが、こっちに来てくれれば良かったんだけどね……)
 本来ならゴーストが早々にこれが脱出ゲームだとみなに伝え、こんな戦闘など絶対に引きおこらないはずだった。だがそれは、最初の段階で頓挫してしまった。
 ラギーが説明を受ける前に攻撃されたのはゴーストの出力ミスによるもので、本来はそよ風邪程度で驚かすだけのつもりだった。だがそうなってから間違いでしたと伝えたところで、素直に聞く者はこのナイトレイブンカレッジでごくごく少数だ。は早々に方針転換すると、被害が大きくならない程度の攻撃を許可したと墓石に残していった。があの時読んだのはその書置きだ。
 フロイドたちにしたって、元はと言えば鏡の欠片を強奪した自分たちが悪いのだ。しかしこちらも同様、素直にそれを聞く相手ではない。も諦めて話を合わせ、ゴーストが怪我をしない程度の攻撃は見逃す事にした。
 その後憑依された生徒への対応に関しては……冷静に考えればわかるが、まずこの学園の生徒が大人しく逃げるはずないのだ。そうなると戦闘は必須。そこは具体的な救出方法を予めに伝えていなかった、リリア達の非だろう。
 そんなすれ違いが重なり、今のこの戦闘に繋がる。
も、律儀にみんなを回復なんてさせない方が良かったんだけどね。そこはさすがに、迷惑かけたって思って良心が咎めたのかな……)
 もしあのまま回復させていなかったら、ここまで派手な戦闘には繋がらなかっただろう。は目の前で繰り広げられる光景を眺めてため息をつく。
「あーーーはっはっはっは!!哀れでちっぽけな屑共よ!!」
 寮生を容赦なく踏みつけ、高笑いするアズール。これではどちらが悪役なのかわからない。元々は取り憑かれて疲労度の高い運営委員を回復させるために用意された魔法薬が、こんな形で仇をなすとは。
「お前ら、本当にそれでも仲間か?目が覚めた時に満身創痍じゃ話にならねーだろ」
 は一番話の通じそうなヴィルに、さりげなく手加減するよう進言してみる。
「あら?敵に情けをかけてくれるなんて、随分優しいゴーストなのね。一匹狼を気取ってるくせに情に厚いなんて、どこかの誰かさんみたい……でもお生憎様。ポムフィオーレ寮の生徒は、そんなやわじゃないわ」
「……そうかよ」
 だが聞き入れる気は一切ないようだ。むしろ取り憑かれた生徒の軟弱さに腹を立てているのか、制裁とばかりに攻撃を繰り出している。
「お主ら、やめるんじゃ~~~!!!」
 そこに、ようやくとグリムを連れたリリアが突撃してくる。リリアに引きずられるように来た二人は、その勢いのまま戦闘の中心に放り出された。
「わっ!!」
「いってー!何するんだゾ!!……うわ!オレ様たち、囲まれてるんだゾ!」
「み、みなさんどうか落ち着いて……!」
 ゴーストに連れ去られたはずの二人の登場に、運営委員の手が止まる。
「茶番は終いじゃ!……全く、家電を叩けば直ると言われていた時代ですらとっくに終わったというのに、お主ら本当に現代の若者か?」
「えっ……リリアちゃん!?ゴーストに乗っ取られてたんじゃないの?」
「リ、リリア氏!説明を求めますぞ!」
 更にはリリアの登場を受け、動揺する運営委員。リリアはため息をつくと、すれ違っていた計画も含めてみなに顛末を語って聞かせた。