「主様!」
「ご無事ですか!?」
 リリアとはマレウスに駆け寄ると、周囲を睨みつける。
「リリアに様!?お二人がマレウス様の元に来たということは……シルバーたちの包囲網が破られたか……!」
 セベクが二人が飛んできた方に目を向けると、そこには茨の檻が出来ており、中にシルバーたちの姿があった。どうやらまだ意識はあるらしい。だがシルバーは悩まし気な表情を浮かべ、こちらをじっと見つめている。
「みんな揃っちまったら、ますます勝ち目がねえじゃん……」
「もはやこれまでなのか……!」
 未だに無傷のマレウスとに加え、加勢に来たリリアとも大きな負傷は見受けられない。先ほどのエースたち同様、向こうの面々も遊ばれていただけなのだろう。
「ぬはは、せいぜい泣きわめくが良い」
「一瞬でゴーストにしてやろう。恐れるな、なにも苦しむことはないぞ」
「ゴーストになって頭を撫でてくれるなら、仲良くしてやってもいいニャ」
「これ以上痛い思いをしたくないのなら、大人しくして?そしたら優しくしてあげる」
「ふふふ……ははは……はーっはっはっは!」
 マレウスの高笑いがホールに響く。戦力差を見せつけられた一同は、絶望の表情を浮かべた。だが。
「……ちっくしょう、こんなところで終わってたまるかよ!散々苦労して、ゴーストたちをぶっ飛ばして、ここまで来たんだ!オレたち『ハロウィーンを終わらせ隊』は……絶対に負けねえ!!!!!!」
 エースの瞳は、まだ絶望の色を灯していない。それを目の当たりにした面々は、消えかけていた闘志を燃え上がらせた。
「第一、もグリムも、だって見つかってない。諦めたら、どんな文句を言われるかわかったもんじゃねえ」
「ふな~~~~~~~~!」
「そう、こんな風にふな~って……って、グリム!?お前無事だったのかよ!?」
 気の抜けるような鳴き声が、張りつめていた場の緊張を一気に打ち破る。
「は?あたっりめーなんだゾ。それよりエース、なんでそんなにボロボロなんだ?」
 現状を全く理解出来ていないグリムは、頭に疑問符をたくさん浮かべている。
「……無事どころか、毛艶がいつもよりよくなってないかい?」
「どうして飛び出したんだグリ坊!今いいところだったのに~~!」
「そうよグリム!邪魔しちゃ駄目って言ったでしょ!」
 リドルの疑問に答えるより早く、その後ろから飛び出してきたのはオンボロ寮のゴーストと霊体のだ。
「うるせえっ。オレ様腹が減ってもう我慢できねえんだゾ!」
「あ、あれほど用意したお菓子を根こそぎ食べておきながら……なんて収容量の腹じゃ!」
「それはわたしにもひがあります。きゅうえんぶっしとして、少々はいしゃくしました」
 更にその後ろから、が申し訳なさそうに顔を出す。突然の出来事に、皆は目を白黒させるばかりだ。そこに、先ほどまで拘束されていたシルバーたちが合流する。どうやら茨の魔法が解けたらしい。
「みんな!」
「ああ、シルバーくん、他のみんなも!大丈夫かい?ひどく疲れているようだ」
 ルークはシルバーに駆け寄ると、落ち着ける場所に誘導する。シルバーはよほど消耗しているのか、それを素直に受け入れた。
「実は、凄まじいしごきにあって……」
「しごき?」
 想像していなかった単語に、セベクは眉間に皺を寄せる。そんなセベクに、シルバーは出来るだけ冷静な口調で返した。
「落ち着いて聞いてくれ。リリア先輩もも、ゴーストに操られてはいない」
「……は?」
 予想していなかった言葉に、一同は呆気にとられる。だって先ほどまでのマレウス、との戦闘は、本気を出さなければすぐにでもやられてしまう威圧感があったのだ。それはリリアと相手でも同様で、しごきなどという生ぬるいものではなかったはずだ。
 しかしリリアとを良く知る者にとっては違ったようで、シルバーは沈痛な面持ちで言葉を続けた。
「戦う姿を見て、すぐにわかった。これが本気の力でないにしろ、は普段の戦い方の癖が出ていた。それに、リリア先輩の太刀筋を俺が見間違えるはずがない」
「え?でも……えっ?え?」
 状況の読み込めないリドルは、まるで金魚のように口をパクパクとさせる。レオナは一気に脱力したのか、荒々しく頭をかいてその場に座り込む。
「あーあー、んなことだろうと思ったぜ!なんだよこの茶番は!」
「はじめは凄まじい魔力に惑わされてしまったけど……竜の君ロア・ドゥ・ドラゴンも、ゴーストに取り憑かれてはいない。マレウスくん本人のようだね。ただ……幽霊の君ロア・ドゥ・ルヴナンは、別だったようだ」
「ニャニャ?」
 急なネタばらしについていけないのか、……に憑依したゴーストはわけもわからず首を傾げる。そしてそのままマレウスに擦り寄ると、再度頭を撫でる催促をした。
「これで終わりニャ?そしたら、約束通りいっぱい撫でるニャ!」
「ちょっ、ちょっと待って!体は貸してあげたけど、そこまでしていいとは言ってないわよ!」
 人形とは言え自身の体で甘えられるのは恥ずかしいのか、は慌ててゴーストをマレウスから引き離しにかかった。どうやらに憑依したのは、猫のゴーストだったらしい。それならば先ほどまでの機敏な身のこなしにも納得がいく。
「そんな……マ、マレウス様……?」
 セベクは未だに状況の整理が追い付かず、わなわなと震えてマレウスを見つめ続けている。マレウスは少しだけ申し訳なさそうな顔をすると、ゆっくりと口を開いた。
「……なんだ、ばれてしまったか」
「つまらんのー。もう少し楽しめると思ったのに」
「マレウス様が途中から口調を間違えるからいけないんですよ。……全く、本当に人騒がせな若様だ」
 リリアとも演技をやめ、いつもの口調で喋り出す。
「では、今までのは全部……芝居、だったと……?じゃ、じゃあさらわれた生徒は?終わらないハロウィーンは!!?いったいなんのためにこんなことを!?意味不明だ!説明を要求する!」
 リドルの意見は最もだ。この場にいる関係者以外の全員が、こんな状況に至った経緯を知りたいと思うのは当然の事だろう。だがマレウスがそれを説明するよりも早く、古めかしい姿のゴーストがその場に現れる。
「その説明は、わたくしたちからさせていただきまする~」
「ゴースト!?しかもこの変な髪型……オレらに攻撃してきた奴じゃねえか!」
 エースは慌てて立ち上がると、ゴーストにマジカルペンを構える。
「待って!敵意は無いわ、話を聞いてちょうだい」
「それもこれも、話せば長い話になる……ことの起こりは、ナイトレイブンカレッジのハロウィーンパーティーが終わった時のことでする」
 ゴーストはその時の状況を思い出しながら、事の起こりを語り始めた。