一方残りの面々はというと。戦力を分断されたにも状況にも関わらず、ゆったりとパイプオルガンを奏でる続けるマレウスに手を出しかねていた。
「招待客は、たっぷりもてなしてやらねばな?」
まるでパーティーに招いた客に対する態度が如く、マレウスは音楽を奏で続ける。その足元にはが控えており、時折頭を撫でてもらいながら鳴き声で歌を披露する。これが本当の猫だったら、飼い主と猫の平和なセッションに見えなくもない。だが外見はあくまでなこともあり、光景の異様さに拍車をかけた。
「どうした?どこからでもかかってくるがよいぞ?」
「主様の演奏会を邪魔したら、引っ掻いてやるからニャ!」
そんな様子に耐えられなくなったのか、レオナが一歩前に出る。
「ははっ、堂々とテメェをぶっ飛ばせるなんて、最高の機会じゃねえか。遠慮なくやらせてもらうぜ」
レオナはマジカルペンの代わりにサーベルを召喚すると、荒々しくそれを掲げる。だがそれを制止したのは、仲間であるはずのセベクだ。
「そのような蛮行、許すわけがないだろうが!」
「んなこと言ってる場合かよ。お前、マレウス先輩がゴーストに取り憑かれたままでいいわけ?」
「そ、それは……だが、しかし……っ!」
エースの発言は最もだ。いくら慕う相手とは言え、それを救う方法が攻撃するしかないのならそうすべきである。それはシルバーだって同じことで、もうその段階をとっくに乗り越えリリア、と戦闘を開始している。しかしセベクはまだ踏ん切りがつかないようだった。
「ああやってずっと……自分に酔いしれながらパオプオルガン弾き続けてるかもしんねーんだぞ!?」
「くっ……!叶うならば、マレウス様の演奏は永遠に聴いていたい……しかし……ッ!」
なおも葛藤を続けるセベク。エースは重いため息をついた後──追撃の一言を放った。
「マレウス先輩、放っておいたらああやっていつまでもとイチャイチャしたまんまだぞ」
「ッ!!!!???????」
まるで雷を打たれたような衝撃を受けたのか、セベクはあからさまに硬直する。その声が聞こえていたか定かではないが、マレウスはそちらを一瞥すると演奏を止めてを構い始めた。
「どうやらあの者たちは怖気づいたらしい。せっかくの余興になる思ったが、残念だ」
「主様がすっごく強いから仕方ないニャ!だからその分、僕と遊ぶんだニャ!」
「ふふ、お前は愛らしいな。本当に飼ってやるのも悪くない」
「ニャ~!」
ゴロゴロと喉を鳴らしてマレウスに擦り寄る(猫)と、それを受け入れ頭を撫でるマレウス。その光景に、セベクの中の何かがはじけ飛んだ。
「お前のようなちんちくりんがマレウス様のペットなど、百億年早いわーーーーー!!!!!!!!」
「いや、早いもなにもねーだろ」
エースの突っ込みは耳に届いていないようだが、ひとまずセベクのやる気を引きだすことには成功した。これでようやくスタートラインに立つことが出来る。
「情けをかけていては、こっちがやられてしまう。なにせ相手は、世界有数の魔法士……あのマレウス・ドラコニアだからね。それには脅威ではないにしろ、組まれると厄介なことには変わりない」
「おや、リドルくん。もしかして怖いのかい?」
「ふっ、まさか」
ルークの問いかけに、リドルはマジカルペンを構えて不敵に笑う。
「たとえ誰が相手だろうと……ハートの女王は決して退いたりしない!ルールを破るものは、例外なく首をはねてやる!そうだねエース!」
「もちろんっすよ、リドル寮長!それに友達がああやって恥をさらしてるの、放っておくわけにはいかないっしょ!」
先ほどはセベクに発破をかけるためのダシにしたとはいえ、エースだっての身が心配なことには変わりない。を早く正気に戻すべく、エースもまたマジカルペンを構えた。
「ふんっ、どいつもこいつもちっせえ口でたいそうなこと抜かしやがって。せいぜい足を引っ張らねえようにしろよ。いくぞお前ら!!」
レオナの号令と共に、皆はマレウスたちの周囲を取り囲む。
「ふふふ。今宵は極上のハロウィーンになりそうだ。宴の余興として、不足はない……横たわり、冷たくなったお前たちに向けて最高の鎮魂歌を奏でてやろう!!」
「シャー!!」
マレウスもようやく戦いをする気になったのか、泰然とした様子で椅子から立ち上がった。は床に両手をつき、本物の猫のように身構える。
「……マレウスくん、キミはゴーストに身を委ねてしまうほど、弱くはないはず。だがこれがキミ流のおもてなしだと言うのならば……喜んでお相手しよう!!」
「来い、生者どもよ!!」
マレウスが左手をかざすと、そこに光が集まってくる。最初から出し惜しみなしでいくつもりなのだろう。
「そうはさせないよ!
リドルはすかさずユニーク魔法を唱えるが……それが放たれるよりも早く、がリドルのマジカルペンを奪い取る。
「なにっ?!」
「手元がお留守だニャーン!」
その間もマレウスの手元には魔力が集約され、最初の一撃が一同に襲い掛かる。それを回避する為に、レオナとルークは即興で障壁魔法の合わせ技を繰り出した。しかしそれでも勢いを完全に殺すことは出来ない。ただの衝撃波なのに凄まじい威力だ。
「本当に、マレウスくんの魔法は規格外だね!敵ながらマーベラス!!」
「んなこと言ってねーでさっさと反撃しろルーク!」
レオナは爆風がやまないうちに、反撃の魔法を放つ。ルークは同時に弓を放ち、それでレオナの魔法を後押しした。目にも止まらぬ速さでそれはマレウスの元へと届くが……マレウスに当たるより早く、無常にも地面に叩きつけられてしまう。
「僕の目はごまかせニャいよ!主様は傷つけさせないニャー!」
「あれは本当になのか!?」
「いつもはもっとおっそいのに!」
普段のを知るセベクとエースは、目の前で繰り広げられる光景が信じられないようだった。一年生で魔法士としての歴は浅いはずなのに、あのレオナとルーク、そしてリドルとまともにやり合っている。動きの俊敏さは人間のそれとは到底思えないし、ゴーストが憑依しているだけでここまで変わるとは。恐るべし憑依の力。
「感心している場合か?僕の本気はこんなものではないぞ?」
今度は複数の魔法を組み合わせたマレウスは、先ほどよりも大きな光を描き出す。黒い渦のようなそれはあっという間に広がり──瞬間、流星群のように降り注いだ。
「ッ!!!!」
全身を貫く衝撃に、一同は膝をつく。致命傷は免れたものの、一気に満身創痍だ。
「い、いくらなんでも……強すぎだろ……!」
「……当然、だっ!あの御方を……誰と心得る!い、茨の谷の次期当主……マレウス・ドラコニア様だぞ!!!」
「お前、どっちの味方なわけ!?」
「これが
にわかに信じ難いが、ルークの言葉は最もだ。こちらはもう息も絶え絶えなのに、マレウスとは傷どころか、息の乱れすらない。
「くっ……ここまでの連戦が、こうも響いてくるとは……!」
「チッ、しかたねえ。こうなったら一か八か、限界まで魔力を……」
リドルとレオナは視線を合わせて頷くと、残った力を集めて魔法を繰り出そうとする。
「駄目だ
「うむ。我もそこまでするつもりはないぞよ」
「……「ぞよ」?」
「……余はそのようなことを言ってはおらぬが?」
「「余」?」
レオナとルークの立て続けの指摘に、マレウスの攻撃の手が止まる。
「おい……なんか口調ぶれてねえか?」
「…………」
レオナが核心を突こうとした時──離れた場所から、慌てた様子でリリアとが飛んできた。