ルークの立てた作戦を聞いてわざと乗る気になったのか、はたまた小手先の作戦など無意味だと知らしめたいのか。マレウスたちは、意外にもあっさりと分断出来た。
「オレはお前らと仲良く戦うなんてごめんだね。あっちの雑魚を蹴散らしてきた方がましだ」
 更にはそう言って、を乗っ取ったゴーストは実行委員の元へと行ってしまう。
 なのでこの場に残されたのは、リリアと、マレウスとの二組。二手に別れた『ハロウィーンを終わらせ隊』は、それぞれをゴーストから引き離すべく戦闘を開始した。
「ほう……私の相手はお前たちか?」
「綺麗に分断できなくて残念だったわねぇ」
「みんな、油断するな」
 リリア、の実力を知るシルバーは、ゆっくりと間合いを詰める。
「これまでのゴーストとは比べものにならない凄まじい力を感じるな……さすがリリアとと言ったところか」
 同じクラスであるリリアと、サイエンス部として共に居る時間の多い。二人を間近に見る機会の多いトレイもまた、その実力がいかに凡人離れしているか理解していた。そして、そんな二人がいっぺんに敵に回ることがいかに危険であるかも。だから相手があのマレウスではなくとも、十分に警戒すべきだろう。
「多少はできる者たちのようだが……所詮はちっぽけな人間よ。蟻が象に勝てるかと思っているのか?」
「生きた人間だって、結局は肉の塊でしょ?そんなもの早く脱ぎ捨てて、ゴーストになった方が楽よ」
 シルバーに対し、見下すような視線を向けるリリアと。そんな姿に、シルバーは今まで秘めていた胸の内をさらけ出した。
「親父殿……あなたはそんなことを言う人ではありません。例えゴーストでも、妖精でも……人間でも、種族に関係なく、努力そのものを認めてくれる懐の広い人だ。だって、生きているもの全てに対して慈みの心を持つ、優しい人だと俺は知っている」
 中身がゴーストであっても、大切な存在であることには変わらない。そんなシルバーの想いは、穏やかな眼差しを通して傍に居る皆にも伝わってきた。
「だから……そんな二人に、こんなことを言わせるゴースト!お前たちだけは許すことができない!」
 言い終わると同時に、シルバーは魔法で剣を召喚して切りかかる。だがリリアは、それを紙一重で避けた。
「ぬはははは!その顔……よい、よいぞ!ならば人間よ……その怒り、とくと私にぶつけてみるがよい!」
「大事な人なら、ちゃーんと助けなきゃね、王子サマ?」
 も同じように飛びのくと、次の瞬間には茨の魔法で辺り一面を覆ってしまう。
「これじゃ逃げ場がないぞ!」
「トレイ・クローバーさんあっち!右の隙間は魔力が薄いよ!」
 オルトが瞬時に茨を解析し、惰弱な部分を看破する。そこに炎の魔法を打ち込みながら、トレイは急いで脱出をはかった。だが、そこまで計算通りなのだろう。通り抜けた先にはリリアが立っており、二人はあっという間に中に戻されてしまう。その中をリリアが縦横無尽に駆け巡り、容赦ない攻撃が続く。
「チッ、ちょこまかすばしっこくて攻撃があたんねえ~!」
 フロイドはリリアに向けて攻撃を放つが、それも全て避けられる。
「おやおや、こっちがお留守ですよ?」
「ッ!!」
 はフロイドが攻撃を放ち終わった一瞬の隙をつき、茨で全身を拘束した。そのままギリギリと締め上げれば、次第に身動きが取れなくなる。だがそれは鋭い切っ先によって、瞬く間に切り刻まれた。シルバーの剣だ。
「フロイド大丈夫か!」
「ああもうやってらんねー!巻き付くバインド…」
「やめろフロイド!閉鎖された空間だと、俺たちに魔法が跳ね返ってくる!」
 フロイドがユニーク魔法を繰り出すのを察知し、ジャミルは慌ててそれを制止する。巻き付く尾バインド・ザ・ハートは確かに強力だが、茨によって一か所に留められている状況での使用は困難。下手すると、仲間同士で相打ちになる可能性もある。もしそれも想定したうえでがこの場を作ったのだとしたら……相当の場数を踏んだ手練れなのだろう。自らを四天王と称していただけはある。
「だったらどうすんだよ!」
「ひとまずの魔法は俺が防ぐ!薔薇を塗ろうドゥードゥル・スート!!」
 上空から降り注ぐの魔法は、トレイのユニーク魔法の上書きによってトランプに変わる。しかしそれも一時的でしかない。トレイの魔力が切れてしまう前に、なんとか対策を練るべきだ。
「リリア・ヴァンルージュさんの攻撃にはパターンがない……足場はさんが逐一変更しちゃうし、これじゃ予測できないよ!」
 茨の檻と、その中を予測不能に飛び回るリリア。リリアの隙はがカバーする事で反撃のタイミングをなくし、オルトですら対処出来ないコンビネーションを繰り広げる。まさに防戦一方、これでは袋叩きに遭っているだけだ。そんな危機的状況に加えて、魔力と体力の消耗。それは思考力も削り、次第に抵抗する力をも奪っていく。
「どうする、シルバー!」
 それでもなんとか致命傷を避けながら、ジャミルはシルバーに指示を仰ぐ。
「ありえない……!」
「……シルバー?どうしたんだ?」
 まるで戦場のような場に居ながら、シルバーは剣を下ろして呆然と呟いた。