「ばあ~~~!」
「っ!!」
不意打ちを食らったは、まるで糸が切れた人形のように膝をつく。瞬間、ゴーストは白い靄となりと同化したように見えた。
「!!?」
「様!!」
慌ててシルバーとセベクが駆け寄ろうとするが、はそれを制止する。
「待つんだ二人とも!様子がおかしい!」
「!?」
「ふふ……みんなが集まった瞬間なら、無防備になると思ったんだけど。ほんと、馬鹿ねぇ」
は不気味に笑いながらゆっくりと立ち上がると──先ほどまで憑依されていた生徒のように、虚ろな視線をそちらに向けた。明らかに先ほどと様子の違うに、シルバーとセベクは不安そうな顔をする。そんな二人に視線を合わせたは、ニィ、と口角を釣り上げた。
「あら、そんなにこの体が心配?大丈夫よ。貴方たちもすぐに乗っ取ってあげるから!!」
「っ!!」
は風の魔法を放ってシルバー、セベクを吹き飛ばすと、そのまま勢いのまま『ハロウィーンを終わらせ隊』の集まっている踊り場を風に乗って飛び越える。軽業師のような華麗な動きは、シルバーが道中話していた英雄の姿を彷彿とさせた。そんな様子を呆気に取られて見ていたは、背後から迫ったもう一つの魔法に気づくのが遅れてしまう。
「っ!?」
一瞬の隙を突き、の体に黒い茨が巻き付く。それはまるで生き物のように床を滑り、の元へとを運んだ。
「この人間は、手土産に貰っていくわ。ここから先は我が主の御前。手ぶらじゃ帰れないもの」
「主だって…!?」
ざわつく一同に、は冷たい視線を向ける。
「主……まさかゴーストたちが言っていた“あのお方”……!?」
「ふふっ、それは自分の目で確かめたらどう?」
そう言い残し、はと共に魔法で消えてしまった。突然の事態に、一同はしばし呆然と扉を見つめる。
「まさかが、ゴーストに乗っ取られるなんて……」
「そうなると、やはりマレウス様やリリア様も……?」
愕然とした様で呟くシルバーとセベク。ずっと信じていた相手があんな姿になってしまのを目の当たりにし、二人は目の前が真っ暗になった。だがそれ以上に、ほどの実力者が憑依されたという事実がハロウィーンを終わらせ隊一同の心に重くのしかかる。こうなってくると、マレウスやリリアが憑依されている可能性は非常に高いだろう。
「……やっぱり、この先に居るのって……」
「ドラコニア先輩と、ヴァンルージュ先輩だろうな……」
「じゃあやたちももう……」
最悪の場合を想像するエペル、デュース、ジャックに、エースは声を張り上げた。
「やめやめ!!まだわかんないことまで心配してたら、進めなくなるだろーが!」
「エースの言う通りだ。どうなっていたって、僕たちがやる事は変わらない。終わらないハロウィーンの原因がこの先にあるのなら……ただ排斥するのみだ!」
リドルは勢いよく扉を指差す。すると、それに呼応するように扉の鍵が開く音がした。どうやら最終局面の準備が整ったらしい。
「そうだな。俺たちは元々、みんなを救出する為に来たんだ。もしお二人がのように憑りつかれてしまっていたのなら、それをお救いするのが俺たちの役目だ」
「当然だ!!従者として、マレウス様やリリア様、そして様の御身を必ず取り返して見せる!!」
リドルの言葉を受け、先ほどまで意気消沈していたシルバーとセベクの目に、再び闘志が宿る。
「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか……みんな、覚悟はいいかい?」
「ああ!」
ルークの掛け声と共に、一同は重々しい扉を開いた。