そこから時は更にすぎ、ところ変わって奇妙な階段ひしめく謎の場所。
いくつかの世界を通り、またこの場に飛ばされたルーク、トレイ、セベクにデュース、そしてそこで再会出来たヴィルの五人は、互いを気遣いながら歩みを進める。時計はおろか、人見の鏡すらまともに使えない異世界では、想像以上に神経をすり減らす。加えていつ遭遇するかもわからないゴーストへの警戒もせねばならず、一同の疲労はピークに達していた。
「ふう、ずいぶんと歩いたね。ヴィル、ケイトくん、体は大丈夫かい?」
「誰に言っているの?……と言いたいところだけど、さすがに万全とはいかないわね」
「正直、ちょいバテてきてるかも。トレイくんたちの足、引っ張っちゃってるよね?」
特にゴーストに憑りつかれ、それを解くのに攻撃まで受けたデュースとヴィル、ケイトは無茶な動きをしていたせいもあり、救出にきた三人以上に疲労がたまっているようだった。
それでもなんとか歩みを進め、また不思議な扉を潜る。するとその先には先ほどと同じ、階段だらけの空間が広がっていた。
「ん?さっきまでと同じような景色ではないか」
セベクは元の場所に戻ろうとするが、今まで同様、皆が通り抜けた途端に扉は消失してしまう。この先どうすべきかと思案していた矢先──聞き慣れた声が響いた。
「トレイ!!それにケイトにデュースも……!お前たち、無事で本当によかった!」
少し離れた場所から駆け寄ってきたのは、一緒に『ハロウィーンを終わらせ隊』として潜入してきたリドルだ。その後ろには、ラギー、、オルト、そして道中救出されたジェイドとアズールが続く。
「リドル!それにエースも!ああよかった……二人とも大きな怪我はしてないみたいだな」
「リドルくん~!エースちゃん~!心配かけちゃってごめんね」
トレイとケイトはリドル、そして別方向から合流したエースの手を取り、互いの無事を確認した。
エースの後には、レオナ、フロイドに、途中で救助出来たエペルとイデアが続いた。これで三つの班と再会出来たことになる。
「すんません。僕がふがいないばかりに、要らぬ手間を……」
「ほんとだよ。がーがー寝てたと思ったら、急に消えやがって、油断しすぎだっつーの」
しょんぼりとした態度で謝罪を述べたデュースに、エースは先ほどまで離れていたとは思えないくらいの気軽さで絡む。
「お前にはいってない」
「は?なんだよその態度。お前、ゴーストに憑りつかれて大泣きしてたって学園長に聞いたぜ?見たかったな~!」
「なっ……!う、うるさい!それならジャックだって、最後は大泣きしたって聞いたぞ!」
デュースは少し離れた場所に居た、ジャックを指差して反論した。再会早々巻き込まれたジャックは、その時の忘れたくて仕方ない記憶を呼び起こされて尻尾を毛羽立たせた。
「なんで急に俺に話を振るんだ!」
そんな様子を、一緒に行動していたジャミル、シルバー、カリムは微笑ましく見守る。いつもと変わらない、染みのある光景だ。
そこで、ここに集まってきた面々の顔を良く眺めてみると──いつの間にか、分断されていた『ハロウィーンを終わらせ隊』全員がこの場に集まっていた。
「トレヴィアン!離れ離れになっていた四つのチームが、再び合流できたようだね!」
ルークの発言に、皆は同寮で集まって再会を喜ぶ……だが。
「むっ、お前一人か?マレウス様とリリア様は……」
「……いまだお会いできていない。その様子では、お前たちも同じ結果のようだな」
「マレウス様も、リリア様も、一体どこにいらっしゃるんだ…!!」
その中にマレウス、リリアの姿は見当たらない。オンボロ寮から連れ去られてしまった者たちも、まだ誰も遭遇出来ていないようだった。
「大丈夫ですよ。あの二人がゴーストなどに後れを取る事などあり得ません」
「そうだよ。まだまだ見つかった生徒は少ないわけだし、望みはあるよ」
不安そうに顔をしかめるセベクとシルバーを、とは元気づける。再会出来たといっても、それはこの場に居る二十二人のみ。未だに六百名近くの寮生は見つかっていないのだ。二人もきっと、同じ場所に居るに違いない。
皆の話をまとめると、この空間に同じタイミングで来られたのはどうやら仕組まれた事らしい。そして皆がいる踊り場の階下には、一際大きくて豪華な扉が佇んでいる。あからさまにも程がある。
「わっかりやすっ。いかにも「この先にボスがいま~す」ってカンジじゃん。ま、罠だろうがなんだろうが、行く以外の選択肢はねえけど」
「珍しく気が合うじゃないか。終わらないハロウィーンの原因がこの先にあるのなら……ただ排除するのみだ!」
フロイドとリドルは意気投合すると、闇の鏡に飛び込んだ時同様、勢いよく扉へ突き進む。だがそれを、が制止した。
「ちょっと待ってください」
「はあ?ワカメちゃん、ここで止めるわけ?」
「ハートの女王の法律を守る為にも、僕は早く行かねばならない。、要件は手短に頼むよ」
「あの扉が最後の関門なのは見て明らかです。そして今、ゴーストに取り憑かれていた者の疲労はピーク。仕方ないので、少しだけ手助けをさせてください」
「手助け……?どういう事だい?」
リドルが不思議そうに呟くと、は小さな瓶を取り出した。
「これは体力を回復させる魔法薬です。貴重なものですので、普段は非常用にしか使いません……ですが今は、まさに非常時ですので。どうぞお使いください」
茨の谷でしか採取出来ない薬草を使用したそれは、体力に不安のあるのいわばお守りのようなものらしい。それを提供してくれると言うのだ。
「でもそんなに貴重なもの、タダでくれるって……くん何か企んでません?」
「本来なら使用者に請求したいところですが、今回に関しては別の首謀者がいますので。大丈夫です」
勘ぐるラギーに、は少し悩んでから答える。すると、今度はその言葉にレオナが反応を示した。
「首謀者ねえ。まさかゴーストたちが話してた“あのお方”にでも請求するつもりか?」
ここまでの事を引き起こした手腕を考えると、“あのお方”が相当の実力者であるのは想像に難くない。だがゴーストが従えているのを考えると、相手もまた死者である可能性は高いのだ。そんな相手に現実世界での金品を要求するなど、無理に決まっているのだが。
「そうですね。可能ならそうします。ですが無理なら学園内の管理を怠り、このような不祥事を引き起こした学園長から経費で落としてもらうよう脅し……いえ、お話させて頂きますので。皆さまはお気になさらず」
意地悪い笑みを浮かべたレオナに、は同じような微笑みで返した。もしこの話を学園長が人見の鏡を通して聞いていたのなら、真っ青になって止めたに違いない。
請求先もまとまったところで、ゴーストに憑依されていた面々はから魔法薬を受け取り口に含む。
「!」
飲み込むと、全身を覆っていた痛みや倦怠感が軽くなった気がした。それと同時に、胸の中から熱が広がって体が温かくなる。
「凄いわね……万全とは言えないけど、体力だけじゃなくて魔力まで回復してる」
「さすが妖精の秘薬、といったところでしょいうか。こんな時でなければ、飲まずに成分を解析したいところです」
魔法薬の感想を述べつつ、身体の調子を確認するヴィル。アズールは瓶に残った水滴を眺め、これが商売に使えないかどうかを早速思案していた。魔法薬の調合に詳しい者としては、成分が気になるのだろう。だがは容赦なく瓶を回収してしまう。
「本来は門外不出のものですので、詳細はお伝え出来ません……ただ空瓶は荷物になるだけですし、ひとまず置く場所を……あそこにしましょうか」
は空き瓶を置くのに、階下の陰へと足を進める。すると、そこから突然ゴーストが飛び出してきた。