さすが上級生と言うべきか、レオナとの魔法は見事だった。ゴーストへの機敏な対応の他にも、即座に連携して魔法を構築する様は、年長者としての貫禄が感じられる。なにより、二人とも寮長を任されるような立場なのだ。エースたちが加勢するまでもなく、あっという間にゴースト蹴散らしてしまった。
「これで俺の役割はわかったな?こいつはともかく、お前らが安心して鏡の欠片を探すために、大切な大切な見張りなんだよ」
「で、そんなレオナが手を抜かないよう、見張るのが僕の役目」
「だからそんなの要らねえって言ってんだろ。つーかてめえ、さっきだって手を抜いて戦ってたろ」
「この先なにがあるかわからないから、体力と魔力は温存すべきだろう?で、レオナもそうしないよう気遣いながら戦ってたんだよ。きちんと見張りの役目を果たしていたと言うべきかな」
「ハッ、よく言うぜ」
 ゴーストならひとたまりもないレオナの威嚇も、はどこ吹く風。フロイドとはまた違った意味でつかみどころのない様子に、エースは今まで抱いていた疑問を投げかけた。
「ここに来てからずっと思ってたんすけど、先輩ってレオナ先輩と仲いいですよね?」
「お前の目は節穴か?」
「いやだって、レオナ先輩にそこまで言える人、この学園じゃ珍しいし」
「確かに。マジフト部の人だって、意見する人はそうそういない……かな」
 エースとエペルの言う通り、レオナ相手に正面から意見を述べる相手は少ない。学年が上だからという理由があるにしたって、だいぶ砕けた関係であるのは明らかだ。
「入学した年が一緒なんだよ」
 そんな彼らの疑問に答えたのはだ。
「今は僕の方が先輩だけど、入学した年が一緒なんだ。クラスも一緒だったしね。レオナが入学した時の周りの反応、本当に面白かったな~」
 当時の事を思い出したのか、は楽しそうに微笑む。逆にレオナは嫌な思い出を連想したのか、げんなりとした表情を浮かべた。
「おい、それ以上喋ったらお前もゴーストと同じ目に遭わせてやるからな」
「はいはいわかったって。詳しくはレオナが機嫌のいい時にでも聞くといいよ」
 煽り方の上手さもそうだし、本格的に怒る前に手を引く様も見事だ。さすが同学年で過ごしていただけある。
「僕もそろそろ真面目に手伝うとするよ。こんな光景滅多に見れないし……もしかしたら、墓石の下に呪われたゴーストの遺体が眠ってるかもしれないしね」
 先ほどまでエースが使っていたスコップをさりげなく拝借し、は意気揚々と墓地の奥へと行ってしまう。……あの様子だと、もしそれがあった場合本当に墓荒らししかねない。
「……なんかサン、思ってた以上に図太いというか……」
「変人?」
「この学園にまともな奴なんていねーだろ」
 エースの歯に衣着せぬ発言を、レオナは特に否定しなかった。きっとクラスメイトとして過ごしていた時も、同じようなことをしていたに違いない。
「ほら、あいつも別の目的がメインとはいえ探しに行ったんだ。お前らも大人しく鏡の欠片を探してこい」
「ちぇーっ、結局レオナ先輩は見張り続行かよ」
「文句言ってもしょうがないよ。レオナサンは部活の時もああだから」
 エペル曰く、レオナは部活中ですらこの態度を崩さないらしい。それどころか、部員が体力作りで走っている時ですら木陰で寝っ転がている始末。レオナはの事を変人扱いしていたが、方向が違うだけでレオナだって十分にそうなのだ。それどころか、図太さだけなら以上だろう。
「でもその分、部員のことをよく見ていてくれるんだよ。プレー中の指示はすごく的確!だからきっと……鏡の欠片を集めろって言ったのも、僕たちならできるって信頼してるからだと思う」
「好意的に捉えすぎでしょ。オレらには策なんてもったいねぇっつてたじゃん」
「とにかく頑張らねえと!僕は右手の方向を見てくる!」
 エペルは気を取り直すと、とは反対の方向へ向かって走り出す。
 そして、その場にはエースとレオナが残された。
「行っちゃったよ……アイツの妙に根性論っぽいとこ、デュースとノリが似てんだよなぁ。ジャックとかセベクとかもそーゆーカンジするし。オレ運動部だけど、運動部のノリ苦手……」
「おいツンツン頭、なにしてる。お前もさっさと鏡の欠片探しに行ってこい」
 エースはレオナに再度捜索を促されるが、思うところがあるのかあれこれ話題を変えて話に花を咲かせる。レオナも暇なのか、なんだかかんだ言いつつそれに付き合っていると……不意に、墓地の静けさを引き裂くような悲鳴が轟いた。
「い、今の声はエペル!?」
「チッ、人が気分よく歌おうとしたところを邪魔しやがって……ゴーストか!?」
 二人は慌ててエペルの悲鳴の聞こえた方へと向かう。
「あっ、トド先輩、カニちゃん。あとナマズ先輩もきた~。五つ先の墓標の近く……あれ見える?」
 先に到着していたフロイドと、同じく悲鳴を聞きつけてやってきたと合流し、四人は墓石の陰に隠れる。どうやらエペルは何者かに捕まったようで、その身を墓石に縛り付けられていた。
「あんなぐるぐる巻きにされて……まさか見せしめ!?ゴーストめ、あんてひどいことを……」
「ひどいよね~。まあ、やったのオレなんだけど」
「なにやってんだテメェ!」
「まあまあレオナ、フロイドだって意味なくやったんじゃないだろうし」
 思わず声を張り上げたレオナを、がやんわりと止める。
「さっすがナマズ先輩わかってる~。トド先輩も言ってた囮だよ。ちまちま鏡の欠片集めるより、ああやって鏡持ってるゴースト集めた方がまとめてぶっ飛ばせてスッキリするじゃん?」
「ちくしょう!フロイド先輩、絶対に許さねえからな!!」
 あの様子だと、エペルに許可を取って囮になってもらったわけではないのだろう。いくらなんでも仲間をあんなあからさまな囮に使うとは……と皆が思った矢先、エペルの悲鳴に釣られてゴーストが現れた。
「グッピーちゃんじゃなくてオキアミちゃんだね」
「またも予想外の事態だが……結果的に奴らが集まってきたんなら、好都合だ。準備はいいかお前ら……やっちまえ!」
「アイアイサー!」
「必要以上の攻撃は、無駄に体力を消耗する事になるから控えるんだよ~」
「言ってねーでお前も戦え」
「ならレオナだって」
「チッ」
 先ほど作戦を立てた通り、エペルに意識を向けているゴーストの不意を突く。結果的に鏡の欠片は大量に集まり、うやむやなままフロイドはお咎め無しとなった。