各々が奇妙な階段のひしめく場所から移動し、鏡の欠片回収を始めた頃。
エペルをゴーストの憑依から救出したレオナ、、フロイド、そしてエースは、集団墓地と思しき空間へと飛ばされていた。だがどこに行こうとすべきことは変わらない。レオナは無遠慮に墓石の上に座ると、残りの四人に指示を出した。
「よく聞けお前ら。ゴーストから奪うでも、土を掘り起こして見つけるでも、手段はなんでもいい。鏡の欠片を集めて来い。一人ノルマ五個な」
「え~~~!」
「なんだその不服そうな顔は」
あからさまな拒否の声に、レオナは眉をしかめる。
「だって明らかに投げやりじゃないっすか。急に作戦のさの字もなくなっちゃってるし」
エースの発言は最もだ。だが、先ほど訪れた実験室のような場所では、作戦を立てる前の段階でフロイドが全て無駄にしてしまった。そうなってしまってはもはや作戦など意味がない。レオナはそんな嫌味を目一杯込めて、フロイドを睨みつけた。
「仕方ねえだろ。どれだけ戦略を練ろうが、台無しにする野郎がいるんだからな」
「へー、ひどい奴がいるなあ」
しかしフロイドはさも自分も被害者であるかのような顔で、へらへらと笑っただけだった。全く反省していない。
「研究所で思い知った。お前らに策なんて上等なもんは百年早え」
レオナはこれ以上フロイドと関わるのは下策であると思い知ったのか、特に気にするでもなく話を続ける。
「ほらエース、おあつらえ向きに、スケルトンによく似合うシャベルが落ちてるじゃねえか。これで地面でも掘り返して、地道に鏡の欠片を探すんだな」
「探すって言ったって……この鏡、ちっこくて見つけるのも大変なんだよなあ」
「そもそも、どうしてハロウィーンパーティーに鏡の欠片が必要なの……かな?」
「締め上げて理由を聞き出そうにも、ゴーストってすぐ消えちゃうんだよね~」
「これまで集められた数からして、元々はとても大きなものだったんだろうね」
エペルの発言は最もだ。最初に見つけた招待状に記載されていたドレスコードの仮装は、ハロウィーンを楽しむうえで納得できる。だが鏡は仮装にも、ハロウィーンを祝う行事そのものにもあまり使われる機会がない。それをわざわざ指定して持ってこさせるには、それ相応の理由があってもいいのだが。
だがあれこれ意見を述べる四人を、レオナは鼻であしらう。
「フン。理由なんかどうだっていいだろ。人質をとられている以上、どんな条件であれこっちは従うしかねぇんだ。ただ……」
そこで一旦言葉を区切ると、レオナの表情が一気に真剣なものに変わる。
「古くより、鏡は多くの魔法道具に用いられてきた。身近なところで言えば、学園にある闇の鏡、鏡舎の鏡、そしてこの人見の鏡……あげればキリがねえ」
鏡は本来、光の反射で目の前の像を映し出すだけのものであるが、魔法の関与しているものは話が別だ。その場のものだけではなく、遠く離れた場所の映像をも映し出す。そして時には、本来行けるはずのないその像の場所へと道を繋げ、橋渡しをしてくれるのだ。この鏡の欠片にも、そんな魔法が秘められている可能性は大いにある。
「ゴーストたちが集めている鏡の欠片が、闇の鏡のように強大な力を持つ魔法の鏡の一部だった場合……ゴーストの世界と生者の世界を繋いで、ゴーストが生者にとってかわる……そんな厄介な話もあり得るかもな」
「こ、この鏡の欠片って……そんなヤバい代物かもしんないの!?」
エースは慌ててそれを手放そうとしたが、レオナがそれを制止する。
「真に受けんなよ。可能性はゼロじゃないが、妄想の域を出ねぇ話だ」
「そうだよエース。レオナの話に信憑性はあるけど、もしかしたらもっと別のものに使うのかもしれない。例えば……ゴーストたちがお祭り騒ぎをするのに使うとかね」
エースを気遣ってか、は明らかに想定外の用途を挙げて場を和ませた。
「さすがにそりゃねーだろ……なにはともあれまずは鏡の欠片を探せ。どっちにしろ、少しでも鏡の欠片を集めておくことに越したことはねーだろ」
「はいはい、わかりましたっと……げぇー……楽しいハロウィーンが、こんなことになるなんて」
げんなりした様子でエースはスコップを拾い上げると、エペルと共に捜索を開始する。
「……で、お前は探さねえのか?」
その場に残ったままのに、レオナはつまらなそうに声を掛ける。
「レオナが昼寝しないように、見張ってる役も一人は必要じゃないかと思ってね」
「そんなもん必要ねえ。とっとと探せ」
「そうかい?今だって寝ぼけてないかい?」
「はあ?てめえ何が言いたい」
明らかな煽り文句に、レオナは怒りの矛先をに向ける。だがはそれを意に介さず、レオナが腰かけていた墓石を指差した。
「だってほら、その暗号にも気づいてないみたいだし」
「暗号だと?」
レオナは立ち上がると、急いで墓石を確認する。確かに言われてみれば、何か模様が刻まれている。
「これはリリアが教えてくれた暗号文でね。かシルバー辺りが、伝言目的で記してくれたんじゃないかな?」
「んなもん俺にわかるわけねえだろうが」
普通の文字ならまだしも、暗号、しかもパッと見は模様にしか見えないものなのだ。知らない者が見たらまずわからないだろう。それに元々わからないようにカモフラージュされたものなのだから、レオナが気づかないのは当然だ。
「で、なんて書いてあるんだ?」
「これを記したのはだね。どうやら最初にこの場に降り立って、ゴーストと遭遇したみたいだよ」
招待状や鏡の欠片を集めるに至った経緯など、簡潔にまとめられた内容は学園長と連絡が取れた際に話したものとも一致する。
「残念ながらさっき学園長と話した内容以上のことは書いてないけど、有益な情報ではあったね。後でお礼しないと」
得られた情報は少なかったが……この暗号がここにあるということは、前に達がここに居たと言う証明に他ならない。そう考えると、この摩訶不思議な空間で再会出来る可能性がぐんと上がったといえよう。
「先輩たち~!サボってないで、こっち手伝ってくださいよー!」
穴掘り疲れたのか、エースとエペルが二人の元へとやってくる。
「サボってなんかねえよ。俺は見張りだ」
「僕の視力では鏡の欠片を見つけるには役不足だからね。レオナが見張りをサボらないよう、監視してるよ」
「そんなこと言ってサボるつもりっしょ?二人とも寮長なんだし、ちゃんと引率してくださいよ」
「あぁ?」
エースの言葉が気に食わなかったのか、レオナはギロリと冷たい視線を向ける。
「え、こわ……そんなに睨まなくても……ちょ、すみませんでしたって!」
「ガオー!!」
「うわぁっ!」
更には雄たけびまであげられ、エースは思わず目を瞑る。だがそれと同時に
「ぎゃあっ!!!」
自分以上に驚いた声を至近距離で聞き、エースは慌てて視線をそちらに向けた。声の主は、エースとエペルの背後に居たゴーストだ。
「ほら、レオナだって一応は仕事してるから、大目に見てあげよう?」
「一応は余計だ。まだいるぞ。油断するな」
とレオナは即座にマジカルペンを構えると、ゴーストに向けて魔法を放った。