シルバー、ジャミル一行と、ルーク、トレイそしてセベクの一行もほかのメンバーと同じように、ゴースト宛ての招待状に則り鏡の欠片の回収を決めた頃。
「これは……」
霊廟へと足を踏み入れたリドルたち一行の目の前に広がっていたのは、不気味な廃村だった。
「どうやらあの扉は、全く別の空間に繋がっていたらしいね……」
リドルが呆然と呟く。四人が扉を潜り抜けると、扉は跡形もなく消えてしまったので戻る事さえ敵わない。いくらゴーストの世界だとは言え、現実ではありえないことが後からともなく湧いてくる。
「あそこに門があるよ。行ってみよう!」
オルトは廃村の入口と思しき、朽ち果てた門を指差す。文字は読めないが看板らしきものもあり、綺麗だった時はそれなりに賑わいのある村だったことが感じられた。とはいっても、ここはゴーストの世界。実際にこの場所が綺麗であった時など、ありもしない事かもしれないが。
「そんなに広い集落ではなさそうだが、小さな家が点在しているね」
「でもどのお家も、今にも崩れ落ちそうなくらいボロボロ……」
「下手に触れると、家ごと倒壊しそうです」
は試しに家の外にある柵を指で突いてみる。すると、金属で出来ているはずのそれはあっさりと崩れ落ちた。この様子だと家も同じ運命を辿るだろう。
「さんにさん、グリムさんにさん……オンボロ寮のみんなは、全員消えちゃったんだよね?無事だといいんだけど」
「ああ、ボクも気にかかっていたところだよ」
心配そうに顔を見合わせるオルト、リドルだが、その発言にラギーは眉間に皺を寄せた。
「二人とも、もしかしなくてもボロボロから連想したでしょ」
「それがすぐにわかる時点で、ラギーさんも同様の発想をしたのでは?」
「だったらくんだって同じッスよ。まあ、確かにどの家もオンボロ寮みたいッスよね。年季も入ってるし」
オンボロ寮の面々がそれを聞いたら盛大に抗議してきそうなことを話しながら、一行は集落の中を進んでいく。程なくして、開けた場所に出た。
「ハッ!みんなあっち見て!」
ラギーが小声で指摘する方を見やると、そこには先ほどと同じような姿のゴーストが集まっていた。皆鏡を求めてうろついている様子からすると、彼らもまた、招待状によってあの方に招かれた客なのだろう。
「どうやらやつらも鏡を探しているようだね。よし、それなら今すぐ取り押さえて尋問を……」
「ストーップ!」
早速ゴーストに攻撃を仕掛けようとするリドルを慌てて止めるラギー。
「リドルくん、何匹いるかわからないゴーストを片っ端から叩きのめしてたら、身が持たないッス!」
「そうですよ。突然襲い掛かるなんて、先ほど脅かしてきたゴーストと同じでは?」
ぎょっとした顔でもラギーに加勢する。先ほどは向こうから仕掛けてきたので正当防衛だったが、今回は明らかにこちらが加害者になってしまう。
「うっ……確かにそうなるが……」
「普段の聡明さはどうしたんですか。もっと考えて行動してください」
「うぐぐ……」
「二人の言う通りだよ。それに、力は最小限に抑えた方が、僕らをはじめ、兄さんや消えた生徒たち全員の生存確率がアップすると思う」
立て続けに正論を言われ、リドルは言葉に詰まる。特にオルトの発言は最もだ。体力や魔力には限りがあるし、この先何が起こるかは分からない。不測の事態に備えて、必要以上の戦闘は避けるべきだろう。
「確かにそうだね……ではこうしよう。今ボクらが探すべきは、この事件の黒幕に繋がる重要な手がかりである鏡の欠片の回収だ。それを持たないゴーストとの接触は避る」
鏡の欠片が一体何を意味しているのかは不明だが……ゴーストたちの様子から察するに、重要なものであるのは間違いない。
「そして、黒幕の待つハロウィーンパーティーを目指すんだ」
「おー!」
ノリノリで返事をするラギーに、リドルは不思議そうな顔を向ける。
「どうしてそんなにニコニコしてるんだい?」
先ほどまではお金にならない事だとあんなに悲観していたのに。不思議そうに尋ねるリドルに、ラギーは楽しそうに答えた。
「シシシッ、だって廃墟で宝探しッスよ?これでテンション上がらないわけがない!お宝って、こういうところに隠してあんのが定石ッスからねぇ~!」
「お宝?ここは廃墟だよ。キミが喜ぶようなお宝なんてあるわけがないだろう」
「リドルく~ん、キミにはわかんないんスか?このロマンが!」
「ロ、ロマン?」
ラギーは肩をすくめながらため息をつく。この様子だと、リドルは本当に分かっていないらしい。
「古びた墓地、人気の無い博物館、古い沼、打ち捨てられた廃村……そういう寂れたところにこそ、黄金の都への入り口があったりするんスよ!」
「あっ、もしかしてトレジャーハントのお話?」
ラギーの説明に興味を持ったのか、オルトも話に加わる。
「兄さんも、トレジャーハンターが主役のアドベンチャーゲームをよくプレイするよ。海や砂漠や森を駆け抜けて、仲間と出会ってヒントを集めて……ワクワクするよね!」
「そうそう!それで最後には巨万の富を得る主人公たち……ガキの頃、近所のみんなと回し読みしてた漫画にそういう話があってさ。憧れたなあ」
「そうなの?わからないな……」
いまいち理解できていないのか、リドルは相変わらず首を傾げるばかりだ。
「考えてもしゃーないッスよ!まずは一軒目、今にも屋根が崩れそうなこのボロ家からいってみよ~!」
ラギーに背中を押され、リドルは渋々と言った様子で扉を開く。すると
「ぎゃーっ!」
中には先客が居た。
「ゴースト!?家の中にもいたのか!」
鉢合わせしてしてしまったリドルはその勢いに気圧され、一歩後ずさる。
「よ、よくもレディの家に無断で侵入したわね!この泥棒!不届き者!許さないわ!」
「えっここに住んでるの!?」
普通に考えたら、倒壊寸前の家に住人が居るとは思わないだろう。だが相手はゴーストなのだ。ナイトレイブンカレッジだって、ゴーストの主な住処は先ほど話題に上がったオンボロ寮。そう考えると、住人が居てもおかしくない。
ゴーストは先ほど同様、風の魔法でこちらに攻撃を仕掛けてくる。それを何とか受け流しながら、一行は仕方なく二度目の戦闘を開始した。