軽音部の手伝いで帰寮が遅くなるとから連絡があったのは、つい先程のこと。ゴーストたちも各々用事があるらしく、今オンボロ寮に居るのはとの二人だけだ。
「暇ねぇ」
「はい」
もしグリムだったら、時間を潰すなどわけないだろう。ゲームや漫画など、娯楽はいくらでもある。だがそれをする気もなんとなく起きず、二人はソファにのんびりと座っていた。
「掃除は昨日終わらせちゃったし」
「ゆうはんの時間には少し早いです」
「課題も勿論全部やったわ」
珍しく手持ち無沙汰である。
すると、静寂を破るかのように玄関のチャイムが鳴り響いた。
「誰かしら?」
とグリムが帰ってきたにしては早いし、そうでなくとも鍵を持っているのだからわざわざチャイムを鳴らす必要はないはず。一体誰なのだろうと疑問を浮かべながら扉を開けると、そこにはマレウス、シルバー、セベク、そしての四人が立っていた。
「あれ?どうしたの?」
お馴染みのメンバーではあるが、そう考えるとリリアが足りない。わざわざ四人で赴くなんて、何かあったのだろうか。
「先程サムの店で氷菓を作る機械を買ってな。さっそく作ってみたいから、調理場を借りたいんだが」
「それならいくらでもどうぞ」
マレウスの要望を快く受け入れると、とは調理場へとディアソムニア一行を案内する。
「でも、どうしてここで作ることになったの?」
「寮で作るとなると、リリアの邪魔が入る可能性があるからな」
「あぁ……」
マレウスの返答に、は眉間にしわを寄せる。確かにリリアが加われば、かき氷は確実に魔改造されることになるだろう。
「……ん? でも確か、今リリア先輩って寮に居ないんじゃないかしら?」
「そうなのか?」
どうやらマレウスたちは購買から直接こちらに来たようで、リリアの所在地までは知らないらしい。
「さっきさんから、軽音部のライブを手伝うとれんらくがありました」
が先ほど受けた連絡の内容を伝えると、セベクがマレウスに問いかける。
「ならば寮に戻られますか?」
「忘れ物を取りに戻って来る可能性も否定出来ない。大人しくこの場を借りした方がいいんじゃないか?」
だがそれを止めたのはシルバーだ。確かに危険度の高いディアソムニア寮内で調理を進めるより、オンボロ寮を借りた方が安全性は高いだろう。
「シルバーの言う通り、ここで調理をするとしよう。元々たちにも振舞うつもりだったしな」
「そうなの?」
「ああ。セベク、シルバー、材料を出してくれ」
「はっ!」
二人は持っていた大荷物を調理机の上に置く、中には氷の他に、味付け用のシロップやフルーツなど、色とりどりのトッピングが揃っていた。とグリム、との四人におすそ分けをするにしたって、いくらなんでも買いすぎではないだろうか。
「凄いいっぱい買ったのね……」
「さすがにこの人数でその量は食べられないと、止めたんですけどね」
その時のことを思い出したのか、はげんなりとした顔で答えた。しかしマレウスも悪意があって大量購入したわけではないだろう。それを察したは助け舟を出す。
「セベクもグリムもいますから、きっとだいじょうぶですよ……!」
最終的にはライブ後パーティーを開くという軽音部のみなにもおすそ分けすることで話は落ち着き、マレウスたちは早速かき氷を作ることとなった。
しかしここで問題が発生する。マレウスが持ってきたかき氷機は電動だったのだ。そしてマレウスは電子機器との相性がすこぶる悪い。スイッチを入れた瞬間、かき氷機はバチンとはじけるような音を立てて動作を停止した。
「………これは」
「………」
あっけにとられるマレウスと、こうなることを事前に予測し防ぐべきだったと頭を抱える面々。いくらなんても幸先が悪すぎる。
「さ、さすがにまだ使ってもいないわけだし……保障内で修理してもらえるんじゃない……?」
「だがこれを修理に出したら、かき氷が作れなくなってしまうな……」
「マレウス様の期待に背くとは、なんて軟弱な機械だ!」
「きかいのせいではないと思います。もちろんマレウスさんが全面てきに悪いわけではないですが……」
「しかし、かき氷が作れないとなるとこの氷はどうする?」
保管しておくにしても、量が量なのだ。さすがにオンボロ寮の冷凍庫に入りきらないし、ディアソムニア寮に持ち帰るとリリアの餌食になる可能性が高い。
「……仕方ない。素手で割るか」
「!?」
マレウスはおもむろに氷を取り出すと、それに拳をぶつけた。分厚い氷の塊は粉々になりあたり一面に飛び散る。だがそれも想定内のようで、散った氷は地面に落ちる前に魔法によって一か所に集められた。
「以前リリアが氷菓を作ってくれた際、魔石器で氷を打ち砕いていたんだ。それを再現してみた」
「………」
マレウスは当時のことを思い出して懐かしくなったのか、嬉しそうに微笑んでいる。しかしその凶行を目の前で見せつけられた面々は、言葉に詰まって無言で割れた氷を眺めた。いくらなんでも規格外の行動過ぎる。
「……さすがに素手で割っただけでは。ただの氷の塊のままです。せめてもう少し砕きましょう」
いち早く立ち直ったは盛大にため息をついた後、マレウスが集めた氷の塊にさらに魔法をかけてかき氷に使えるサイズに整形した。これなら食べるのに問題ないだろう。
「さんとさんはトッピングの準備をお願いできますか? シルバーとセベクはマレウス様の前に氷を運んでください」
「わっ、わかりました!」
「承知しました!」
声をかけられたことで、ほかの面々の思考も現実に戻る。指示された通りに作業をこなしていけば、それなりに見える状態までもっていくことができた。
「機械を使わなくても、なんとか形にすることができたな」
「さすがマレウス様です!」
「最初はびっくりしたけど、完全に手作りってのも楽しいわね」
それから各々好きなシロップを選び、かき氷にかけていく。マレウスとはイチゴ味、セベクとはメロン味、シルバーとはレモン味。六つ並んだかき氷は、鮮やかな色合いをしていて見ているだけで楽しくなる。
「たまにはこういった催しも悪くない」
みんなで協力して出来た作り立てのかき氷は、いつも以上にきらきらと輝いて見えた。