2-A、Dの合同授業で魔法薬の課題を出されたシルバーとは、ディアソムニア寮の談話室の一角を陣取り課題を進めていた。だが冬の放課後の談話室は、暖炉の炎が温かく居心地がいい。その魔力に屈したシルバーは、早速舟を漕ぎ始めた。
「シルバー起きてください。ノートが真っ白ですよ」
「はっ…すまない」
が控えめにシルバーの肩を叩くと、シルバーは勢いよく顔をあげる。
「温かいからいつも以上に眠くなる気持ちはわかりますが、もう少し頑張りましょう?」
「ああ、この後親父殿と鍛錬の約束もある。だから早く終わらせなければ」
シルバーは気を引き締めて課題に再度取り掛かる姿勢を見せるが、数行進むとまた瞼が重くなってきたのかうつらうつらし始めた。こうなってくると、このまま続けるのは難しいだろう。経験上そう察したは、気分転換に話題を変える事にした。
「ところでシルバー、さんに渡すホリデーギフトは決まりましたか?」
「いやまだだ。ステッカーあたりが良いのではないかと思っているんだが……」
確かは様々な種類のステッカーを集めていたので、妥当なセレクトだろう。だがシルバーの表情はいまいち晴れない。
「もっとホリデーらしいものが良い気がして、決めきれないんだ。カリムは行商人から買いつけた品を使って宴をすると言っていたし、マレウス様も小規模ながらパーティーを開いていた。それなら、俺だって何かしら特別感を出すべきだろう?」
「あれと比較するのはどうかと思いますが……」
カリムもマレウスも、まず財力が規格外なのだ。そこと比べてしまったら、誰のギフトも子供の遊びになってしまう。そういう意味では、ありきたりなギフトを選んだレオナはだいぶまともな感性をしていると言えよう。
「ギフトは気持ちが大切で、規模を比較するべきではないとわかっている。でもだからこそ、ホリデーに相応しいものを選びたいんだ」
「なるほど」
シルバーの気持ちはにも十分理解出来た。それならも一緒に出来る範囲で、ホリデーギフトに相応しいものを選びたい。そう考え、ホリデーといえば思いつくものをいくつか挙げていく。
「私たちの担当日はクリスマスの前ですし、それに関連するものが良いのではないでしょうか?」
「クリスマス風のステッカーを用意するのはどうだ?」
「それも良いですが、さんはただ闇雲にステッカーを集めているわけではありません。そう考えると、ステッカーの種類自体は変えない方が良いかと」
「言われてみればそうだったな。だとすると、クリスマスらしい飾りにすればいいのではないか?」
「飾り……確かに良い案かもしれませんね」
そこではふと、サイエンス部での出来事を思い出す。あれなら使えるかもしれない。
「飾り、といえばもみの木ですよね。それなら、サイエンス部で実験用に育てたものの余りがあります。それを一株もらい受けて、そこにステッカーを飾るというのはどうでしょう?」
「とても良いと思う。だが、もみの木を譲ってもらえるのか?」
「どうせあのまま残していても、きっと持て余すだけでしょうから。それにオンボロ寮は庭が広いですし、一本くらい木が増えても問題ないかと」
植物育成に関しての研究に多く携わるが、観察終了後のもみの木の世話を押し付けられる可能性は十二分にある。それなら、ギフトと称してプレゼントしてしまった方がこちらとしても助かるのだ。
「それにギフトのアレンジの範疇を超えると言われた場合は、大人しく回収すればいいだけです。やるだけやってみては?」
「ああ、そうしよう」
の提案に、シルバーは晴れやかな表情で頷く。
「では叔父様との鍛錬が終わったら、一緒に飾り付けしましょう。貴方たちが鍛錬をこなしている間に、部室からもみの木をもらってきます」
「ツリーの飾り付けなんて、子供の頃以来だな」
「そうですね」
小さいころ、一緒にツリーの飾り付けをしたことを思い出す二人。あの時は確かリリアが出掛けていて、その間にセベクと三人でこっそり用意したのだ。帰宅後とても驚いて、嬉しそうに笑ってくれたリリアの笑顔をよく覚えている。
「あ!せっかくですし、叔父様にももみの木を贈りましょう。お部屋にこっそり置いておいたら、昔のように驚いて下さるかもしれません」
「それならセベクも呼ぼう。鍛錬が終わったら声を掛けてみる」
「マレウス様は…仕方ないので誘ってあげましょう。のけ者にしたら恨まれそうですし」
「ああ。きっと喜んで参加してくださる」
「では善は急げですね。まずはこの課題を消化してしまいましょう」
「っ!すっかり忘れていた……」
シルバーは真っ白のままの課題を思い出し項垂れる。飾りつけや鍛錬の前に、まず目の前の課題を終わらせなければ何もすることが出来ない。
「ふふ、でも眠気も忘れていたでしょう?なら次はもう大丈夫です。私も手伝いますから、早く終わらせましょう」
「そうだな。これ以上親父殿を待たせるわけにはいかないし、善処する」
真剣な表情で再度課題に取り組むシルバー。そんな彼の横顔を眺めながら、は優しい笑顔を向けた。