ナイトレイブンカレッジでは、毎年ホリデーを学園内で過ごすにささやかなギフトを贈るのが通例になっている。前年までは寮単位でセレクトし贈っていたのだが、マンネリ防止なのかはたまた学園長の思いつきか、今年は個人という形になった。だが毎年贈り物の規格は決められているし、他と被り過ぎるのも頂けない。ただどちらにせよネタ切れなのは否めず、そんな状況を打破すべくはマレウスの元へ相談に訪れていた。
「それでね、蜜やカップケーキはディアソムニア寮で前に贈ったでしょう? だから今年は、別のものを贈りたくて。冬って寒いから部屋にこもりがちだし、本の類が良いかなとは思ったんだけど」
「確か僕の前日がキングスカラーの担当だったはずだが、魔導書を用意していると言っていたな」
「じゃあ駄目ね……」
力なく首を横にふる。さすがに直近のプレゼンターと中身が被る事態は避けたい。
「ここまでくると、被る事自体避けられないと思うがな」
「それはそうなんだけど」
毎年被る者が出てくるのでそれ自体は問題ではないし、有用なものならいくらでも喜んでもらえるだろう。もちろん何を贈っても喜んでくれるとは思うが……それではこちらの気が済まないのだ。
「自己満足だって分かってるの。でもね、せっかくのホリデーなんだから喜んでもらいたくて…!」
この一年、去年以上に大変なことがあった。それでも頑張っていたに少しでも報いたいのだ。そんなの熱意を受け、マレウスが深く頷く。
「そうだな。僕らは特に、に世話になった。ならば最高の祝福を贈ってやらねば」
二人はギフトとして選べるものを吟味しつつ、が喜びそうなものをセレクトしていく。しかし元々煮詰まっていた事もあり、決意を新たにしたところであっさりギフトが決まるわけではない。
「ふむ、やはり難しいな。、以前が欲しいと言っていたものはないのか?」
「うーん……昨日は旬の食べ物が欲しいって言ってたけど、これはさすがにギフトにならないし……」
安直ではあるが、オンボロ寮の懐事情を考えると一番妥当なものは食べ物だ。しかし、当然ギフトの中にそんなものはない。スイーツはいくつか挙がっているが、あくまで嗜好品ばかりだ。
「お肉だって当然ないし……お肉を調理する圧力鍋…も、もちろんないからやっぱり大人しくスイーツから選ぶのが無難かしら」
「なら氷菓はどうだ?」
「アイス系はギフトに入ってないでしょ?それに、それってマレウスが食べたいものじゃない」
「学園長が『ギフトに関係のあるものなら多少はアレンジを加えても問題ない』と言っていただろう? 温かい部屋で食べる氷菓は、特別な味わいがある。だから冬のギフトにピッタリだと思ったんだが」
「うーん、確かにそうだけど……」
あくまでメインのギフトを引き立てるためのアレンジなら、常識の範囲内で可能とされている。しかしまだメインが決まっていないのに、アレンジだけ決まるのもいかがなものか。
「氷菓……スイーツ…おやつ……おやつ!」
は両手を合わせると、ぱっと顔を上げた。
「内緒のおやつを、アイスにトッピングするのはどうかしら!」
「なるほど、それならアレンジの範疇に入るだろう」
「分解する事は禁止されてないはずだし、大きなアイスに綺麗に飾り付けしたらクリスマスケーキみたいで素敵だと思うの」
「ああ、それなら特別感もでるな」
「でしょ!」
のアイデアに、マレウスも賛同を示す。メインの素材に具体的な手を加えているわけではないし、これなら学園長にも文句は言われまい……最も、学園長がそんな妙な制約を付けたのは「個人的に将来有益であると思える情報を明記してあるものなら、教科書とみなしアイドルの写真集を贈っても問題ない」ととんでもない抜け道を掲示した生徒が居たから生まれたものなのだ。この程度のアレンジなど可愛いものだろう。
「グリムは食いしん坊だから、いっぱい作らなきゃね」
「そうだな。それにもし余ったら、リリアたちに分けてやればいい」
「ならいっそのことみんな呼んで少し早いクリスマスパーティーしましょ! きっとならそれもギフトの一つとして、喜んでくれると思うわ」
「パーティーか……それは素晴らしいな。是非やろう」
パーティーとの言葉に、マレウスの表情が明るくなる。普段こういった催しに呼ばれづらいマレウスは、最近になって“自分が呼べば合法的にパーティーに参加出来る”との知見を得た。それが実行出来ることが嬉しいのだろう。
贈り物がやっと決まった二人は使用する氷菓の相談したり、たちにバレないよう魔法を駆使しつつオンボロ寮の一室を整備したりとあれこれ準備を進めていく。そうして用意されたギフトは、思いのほか大規模なものになってしまった。
「これ。学園長に怒られないわよね…?」
いいアイデアだと思ってノリノリで準備したはいいが……まさか学園側も、ホリデー中にこんなギフトを用意するとは思ってないに違いない。バレたら某生徒同様、来年からの禁則事項として汚名を刻まれてしまうかもしれない事態には少しだけ恐怖を覚えた。
「だがもう今更だろう?」
「……それもそうね」
もうここまで来てしまったら後戻りも出来ないのだ。せいぜい学園長にバレないよう祈るくらいしかやる事がない。もしくは、今から賄賂としておやつの一部を献上すべきか…と、そこまで考えて、はハっとする。みなが来る前に、やらねばいけない事があるのだ。
「そうだった! ねぇマレウス、これ貰ってくれる?」
「?」
はギフトを保管している保冷ボックスから取り出したのは、雪だるまの形のアイスクリームだ。飾り付けは内緒のおやつの一部が使われており、可愛らしく顔が描いてある。
「これはマレウスの分。私から貴方への、みんなには内緒のおやつ!」
「……ふ、ふふ……なるほど、ははっ」
マレウスはそれをまじまじと見つめた後……肩を震わせて笑い出した。
「えっ!? 何? 何か変…もしかしてアイス溶けちゃってた!?」
「いや違うんだ。同じことをしていたのがおかしくてな」
「同じこと?」
理解が出来ずに首を傾げるに、マレウスは微笑みかける。そして手をかざすと、そこから光の粒が溢れて氷菓が出現した。
「ああ。僕もこれを、お前だけに用意していたんだ」
「!」
差し出された評価は薔薇をかたどっており、先ほどのアイスクリームと同様内緒のおやつのトッピングがしてある。まさか自分と全く同じことをしていたとは思わず、は先ほどのマレウス同様きょとんとした顔を浮かべた後、同じように笑いだした。
「ふふふっ…ほんとおかし…ふふっ」
「気に入ってくれたか?」
「ふう……もちろん。凄く嬉しいわ、ありがとうマレウス」
「ああ、僕からも感謝する」
「これが本当の内緒のおかし、ね」
「そうだな」
視線を交わすとまた笑いがこみあげてきて、今度は二人で笑いあう。たちが来る前に二人でこっそり食べた氷菓は、一際特別な味がした。