贅の限りを尽くした応接間を通り、恐縮しながらも荷物を宝物庫へと預けたトレイ、ケイト、マレウス、そしてとの一行は、着替えるために割り当てられた部屋へと向かう。
「着替えをするだけでここまで仰々しく迎えてくれなくても大丈夫なんだが……」
「外観も凄かったけど、中はそれ以上って感じだね~!ほら、踊れちゃうくらい広いよ!」
ケイトはトレイの手を掴むと、ステップを踏みながら一回転する。静まり返った広間に反響する足音が、屋敷の広さを物語っていた。
「金を多用したきらびやかな装飾だな。茨の谷の城とはかなり趣が違う」
「茨の谷のお城はどんな感じなの?」
「黒を基調とした、厳かな雰囲気だ。ディアソムニア寮の内装と近いところがあるな」
「土地によってだいぶ変わるのね。まるでナイトレイブンカレッジの寮みたい」
長い長い廊下を過ぎ、まるで迷路のような道のりを経てようやく一行は部屋までたどり着いた。
「では、様はこちらの部屋へ。様はそのお隣の部屋へお入りください」
「じゃあここからは別々だね」
「そうね。カリム先輩たちはどんな服を用意してくれたのかしら?」
が部屋に入ると、そこには数人の侍女が待機している。促されるままに中へ入り、あれよという間に服を脱がされ伝統衣装を着せられるのは、まるで自分が着せ替え人形になったかのようだ。
「お召し物は女性らしいものが好ましいとカリム様から仰せつかっておりますので、ユニセックスなデザインの品をご用意致しました」
「………!」
鏡に立つ自分の格好に、目を丸くする。
「凄い…!まるでお姫様みたい…!!」
「お気に召しましたら幸いです」
「はい、凄く気に入りました!服はもちろん、髪可愛くアレンジしてくださって……本当に、ありがとうございます…!」
お礼を述べるに、着替えを手伝った侍女たちは笑顔で頭を下げた。
「他の方々はもうお召し替えが終わったようですので、カリム様のところへお戻りくださいませ。案内はあちらの者が致します」
来た時と同様、長い廊下を進んで今度は屋敷の外へと出る。先ほどは直射日光が辛かったが、巻いてもらったバンダナのお陰か日差しが幾分柔らかく感じる。それに、服を着ているのにそこまで熱くないのは、通気性の良い素材だからだろうか。
「お、も来たみたいだな」
ようやく集合場所へ戻ってきたを、カリムは笑顔で迎え入れる。
「ごめんなさい遅くなっちゃって」
「気にすんなって。用意した服、ピッタリだったみたいだな。さすがジャミルだ!」
「一体どうやって俺たちのサイズを……」
トレイがぽそりと呟いた言葉を、着替えを用意してもらった面々は同様に頭に浮かべたが……確かルークも同じようなことが出来た気がするし、きっと出来る人間には可能な芸当なのだろう。と、無理矢理納得することにした。どう把握したのかは、この場では気にしない方が精神衛生上良いだろう。
「良く似合っているじゃないか。お前の衣装は、僕たちのものとは少し違うんだな。暁のような色合いが、瞳の色に映えて美しい」
「ありがとうマレウス。貴方も凄く似合ってるわ。いつもと雰囲気が違うから、ちょっとドキドキしちゃったもの」
「みんな少しずつデザインが違うけど、の服はもっと違ったアレンジなんだね」
「カリム先輩たちが、ユニセックスなものを用意してくれたって言ってたわ」
「ちゃんにぴったりのデザインってわけだね。さすがカリムくん、やっる~!」
それから記念写真と称して一通り撮影を済ませると、カリムは挨拶回りの為に一旦この場を離れた。
「ジャミル先輩は、カリム先輩と一緒に行かなくてもいいんですか?」
「カリムの事は別の者に任せてある。あいつの突飛な行動には慣れている者ばかりだから大丈夫だ。それに俺は、カリムの父親直々にお前たちの案内するよう言われている」
の問いかけに答えた後、ジャミルは居住まいを正す。すっと伸びた背中が、従者としての責任を完璧に果たすと言外に告げているかのようだ。
「それではみなさん、絹の街を案内します。何か要望はありますか?」
「俺は、ここにしかない伝統料理に興味がある。特にデザートはレシピを覚えて自分で作ってみたいから、出来るだけ多く食べたいな」
「オレ様もウマいものいっぱい食べたい!屋台料理を全部食べてやるんだゾ!」
トレイとグリムは熱砂の国の料理が希望らしい。グリムに至っては待ち時間であんなにお菓子を食べたのに、まだ食べたりないのかよだれをこらえながらソワソワしている。
「僕はこの国の文化や風土を感じられるようなものを見てみたい。漠然としているかもしれないが……熱砂の国に来たと感じられるものを見て、リリアに報告したいと思っている」
「んー……オレも熱砂の国にしかない珍しいものが見たいかな。映える建物とか、特産品とか♪」
「私も特産品が気になります。トレイ先輩たちがさっき話していたヤーサミーナシルクのような絹製品を、オンボロ寮の改装に使いたいの」
「それなら自分も。実は部屋の布団がもう擦り切れてて……」
マレウスとケイトは観光、とはお土産ものに、それぞれ興味があるようだ。
「それなら……まずは、ラクダバザールへ行きましょう」
「よーし!ウマいもの食べに、出発なんだゾ!」
こうして装いも新たになった一行は、ジャミルの案内でラクダバザールへと向かった。