骨董店で本を購入し、一行はザハブ市場へと向かう。カリム曰く、このような品ならばそちらの方が多く取り扱っているらしい。
「そういえば、先ほど骨董店の店主が話していた来週の件とはなんのことだ?」
 マレウスが言っているのは、帰り際にカリムが店主と話していた内容についてだ。
「あー。あれは、オレのとーちゃんが開く宴のことだよ。花火大会が終わったら、協力してくれた街の人たちを呼んで宴をするんだ」
「つまり、この祭りの慰労会と言うわけか」
 花火大会自体が大規模な宴のようではあるが、それはアジーム家をはじめとした多くの者の努力の上に成り立っている。もちろん恩恵も多いので無償の奉仕ではないが、それでも観光客への対応など、街の者がなすべきことは多い。それを労って、祭りが終わった後に街の者だけで宴を開くらしい。だが参加者が地元民限定とはいえ、そこはアジーム家主催の宴。規模は莫大なものであるようだ。
「象とかラクダなんかの動物や音楽隊が、行進したりするんだぜ!オレたちは学園に帰るから参加できないけど……キラッキラで豪華な宴なんだよな~」
「聞くだけでも盛大な様子が伝わってくるな」
「花火大会とはまた違った、素敵な宴なんでしょうね」
「ああ!とーちゃんが気合いれて開くからな!あ、でもマレウスも故郷でたくさん宴をしてきたんだろ?茨の谷の宴も楽しそうだ」
 王族と言えば、カリム以上に宴は切っても切れないものだ。主催であるのはもちろん、国賓として呼ばれた経験もあるに違いない。だがそんなカリムの予想とは裏腹に、マレウスの返答はなんとも簡素なものだった。
「いや、僕はこれまでに人間がたくさん集まるパーティーに招かれた経験がない」
「ええーーーっ?!」
 宴など日常的なことだと思っていたカリムは、目を丸くして驚く。
「マレウス、宴を知らないなんて人生損してるぜ!今度オレの開く宴に誘うから来いよ!」
「ほう、この僕を招待しようというのか?面白い……では招待状が届く日を待つとしよう……誘えるものなら、だが」
「でも、今はそれより絹の街の観光だよな!このまま真っすぐ進めばザハブ市場だ」
「ああ」
 カリムの誘いをマレウスは快諾していたが、最後に呟かれた言葉をは聞き逃さなかった。
「………」
 確か以前も話していた、招待されない呪いの話。リリア曰く厄介な因果だというそれは、マレウスが度々寮長会議に呼ばれない原因にもなっているらしい。マレウス自身は慣れてしまったのか、そこまで気にしている様子は見えない。だが、せっかく誘われる度にそのような気持ちになってしまうのは、なんとなく寂しい気がした。
「どうした?」
「え?……あの……、ちょっと日差しが強いから疲れちゃって。でももう大丈夫よ」
 黙ったままのに声を掛けるマレウス。は急いで現実に思考を戻し、返事を返した。
「なら早く行こうぜ!市場なら涼しいところもあるからさ」
「そこでいったん休むとするか」
「そうね」
 こうしてザハブ市場へと到着した三人は、入り口でよく見知った姿を捉えた。
「ジャミル!」
「カリム、どうしてお前がここに!」
「マレウスくんにちゃん?!うわっ、ホントにいた!しかもカリムくんまでいるし!」
 カリムとの遭遇は全く予想していなかったようで、ジャミルたちは心底驚いた顔をする。だがその後ろにマレウスとがいるのを見つけると、ほっとしたような顔をした。
「マレウス先輩もも、何ごともなくて安心しました」
「ごめんなさい。本当は連絡するつもりだったんですけど……」
 何度か連絡するチャンスはあったのだが、その度に邪魔が入ってしまい結局連絡しないでここまで来てしまった。はジャミルに頭を下げる。
「いや、構わないさ。お前たちの位置はGPSで確認できたからな……さすがに、カリムと一緒にいるとは思わなかったが」
「GPS?!!」
 ジャミルの口から飛び出た単語に、驚いたのはケイト達だ。
「はい、その服の鈴飾りには、GPSが付いているんですよ」
「え、待って。もしかしてマレウスくんたちじゃなくて、オレたちの服にも……」
「もちろん」
 平然と述べたジャミルに、ケイトとトレイは慌てて鈴を取り外そうとする。だが鈴はきっちりと縫い付けられており、取れる気配はない。
「絹の街には人が多いですから。皆さんの居場所が分からなくなったとき、万が一にも連絡が取れなくない状況に陥ってしまったら大変です。その点、GPSがあればこうして合流出来ます。実際、役に立ったでしょう?」
 マレウスとに視線を向けるジャミル。確かに実例まで出来てしまったわけだし、頭ごなしに否定も出来ない。
「でも、だったら先に言って欲しかったー!」
「はは、確かに」
 こうして無事合流することが出来た一行は、新たなお土産を探すべくザハブ市場へとくり出した。