ケイトによるジャミルくんフレンズ…もとい皆の紹介に、ナジュマは興味深そうに耳を傾けている。
「ケイト先輩って、他人を紹介するのが上手ですよね」
その様子を眺めながら、ジャミルがぽそりと呟いた。人付き合いの上手いケイトらしく、わかりやすく説明しつつ各々の良さも褒める事を忘れない。見事な説明だ。
「そうだな、よく観察しているよ」
「本当に、さすがケイト先輩」
トレイの言葉に、も賛同する。
「私の事、女子だってバレない程度に話しつつ、でも女の子向けのお洋服とかも自然に買えるよう説明してくれてましたもん」
ナジュマに聞こえないよう、声のトーンを落として感想を述べる。ナイトレイブンカレッジに女子、しかもゴーストが一緒に通ってますなんて素直に説明出来るはずがない。だがケイトはそれを自慢の話術で上手く隠し、でも真実も織り交ぜ見事に紹介してくれた。お陰でこの先も苦労なく同行できるだろう。
「後でお礼言わないとね」
「そうね」
の言葉に頷きつつ、はひとまず心の中でお礼を述べた。
それからバザールを練り歩きながら、スターフルーツやドラゴンフルーツなどをつまみつつ屋台をめぐる。そして時折珍しい商品が目に入ると、ジャミルとナジュマにアドバイスをもらいながらお土産を吟味した。
「それで、ここが女子に人気のお店でーす!この前マジカメでバズってたアクセサリーも置いてありますよ!」
ナジュマはの手を取ると、意気揚々と店内へ入る。中は大小様々な形のアクセサリーや化粧品、ボディケア用のアイテムや可愛いインテリアに至るまで、女子ウケのしそうなものが所狭しと並べられていた。
「これなんてどうですか?この前友達も買ってたんですけど、好評でした」
「あ、これはマジカメで見たことある!」
「最近よく見ますよね~!でも私はこっちの方がオススメです。普段使いしやすいですし、なによりデザインが……」
目まぐるしく変わる話題とハイテンションな会話にあっけにとられる一同。は普段以上に生き生きとしてるし、ナジュマもほかの店を案内していた時より明らかに楽しそうなのが見てわかる。
「この感じ、いかにも女子って感じ!眩しー!」
だが姉がいるケイトは慣れているのか、特に臆することなく会話に交じっていく。更には姉に頼まれたというスクラブを一緒に選び出した。正直どれも同じに見えるが、あの三人にはきちんと判別が出来ているらしく、あれこれと意見を述べながらテスターを試している。
「女の子的には、どの香りが好み?」
「私はこの、ベリーの香りが好きです!」
「でもこの季節に使うなら、期間限定のレモンの香りもいいと思いますよ」
「あ!そっちも凄くいい香り!両方買って帰りたい…!」
「だったら、このお試しセットにしようかな~。何種類も入ってるから、姉ちゃんも好みのやつを選べるだろうし!」
「このお店は通販もしてますから、気に入ったものがあったらあとからネットでも買えますよ」
「それめっちゃ助かる~!」
「………」
一向についていける気配のない内容に、残された者たちはいそいそと店を出た。
続いて向かったのは、香辛料の売られているエリアだ。
「お店に入る前から、スパイスの匂いが充満してる~!」
色とりどりのスパイスを写真に収めるケイト。店の入り口に山積みされているスパイスはどれも鮮やかな色をしていた。
「珍しい種類のものが沢山あるな。これは見たことがない」
「それはアジョワンですね。主に豆や肉料理で使われるスパイスです」
「タイムに似た香りだな……上手く使えばスイーツにも応用できるか?」
「こっちはどう?可愛い見た目だし、アクセントにいいんじゃない?」
「おいケイト、キャロライナ・リーパーはさすがに使わないからな。それはスイーツに仕える代物じゃない」
「ちぇっ、バレたか」
トレイはジャミルにアドバイスを受けながら、スパイスを厳選する。時折ケイトが横からあれこれとスパイスを勧めているのは、辛い料理が好きだからだろうか。
「ねぇマレウス、これ見て!」
「?」
は陳列棚に並んでいる、真っ赤な小さい果実を指差す。
「ドラゴン・ブレス・チリですって!あれを食べたら、マレウスみたいに火を吹けるようになるのかしら?」
「先ほどのドラゴンフルーツもそうだったが、ドラゴンを冠する食べ物は存外多いんだな。興味深い。買って帰るか?」
「おいおい兄ちゃん、それは売りもんじゃないぞ」
マレウスの言葉に、店主はおかしそうに笑いながら続ける。
「あれは辛すぎて、食用には流通していないんだよ。ウチにあるのは展示用のみさ。辛すぎて火を吹くってんで、ドラゴンブレスって名前なんだよ」
「なるほど」
「しかし火を吹くなんて、面白いこと言うんだな。兄ちゃんたち、大道芸人かなんかんかい?」
「ほう。気になるか?」
マレウスの目がスッと細められる。機嫌を損ねた様子は見受けられないが……これはまさか。
「……あ!私あっちのお店も気になるわ!ほら、マレウスも行きましょ!教えて下さりありがとうございました!」
は早口で礼を述べると、マレウスを急いで外に連れ出した。こんなところで実際に火を吐かれては、ちょっとした騒ぎになってしまう。
店内から出ると、ナジュマと共に別の店へ行っていたたちが待っていた。
「どうしたの、そんな慌てて」
「ちょ、ちょっとね……」
「お待たせ。いい買い物が出来たよ」
とマレウスに続き、買い物を終えたトレイたちも店から出てくる。
「暑いし、待ちくたびれて一歩も歩けないだゾ……」
「ごめんごめん。面白いスパイスがあってつい夢中になってな」
「暑いなら、今度はアイスでもいかがですか?この先にあるメロンアイスが絶品なんです」
「アイス!早く食べに行くんだゾー!」
ナジュマの提案に、グリムはすぐさま立ち上がって先頭を歩みだす。
「一歩も動けないんじゃなかったのー?」
「ほんと、現金な奴だ」
グリムの変わり身の早さに笑いつつ、一行はシルキーメロンの屋台を目指した。