、グリムと再会した後。バスケ部の練習上がりのエース、フロイド、ジャミル、そして実行委員の仕事が終わり合流したジェイドとを加えた面々は、麓の街まで昼食に繰り出した。麓の街も飾りつけはハロウィーン一色で、ナイトレイブンカレッジだけでなく島全体がハロウィーンに全力であることが良く分かる。オレンジに紫に黒、そして怖くてお茶目な装飾の数々を見ていると、それだけで気分が上がった。
 その後昼食を食べ終え、オンボロ寮まで戻ってきた面々に待ち受けていたのは──まさかの人だかりだった。
「ウチの格好のヤツらじゃねぇな。ハロウィーンの客か?」
「きゃー! ゴースト、こっち見て!」
「ウィンクしてーーー!」
 どうやらゴースト目当てらしく、スマホを片手にゴーストへアピールをしている。かくいうゴーストたちは、まんざらでもないのかリクエストに応えながら撮影に応じていた。
「やっぱり騒ぎになってるね」
「すごい人だかり……ダイヤモンド先輩の言った通りだ」
「デュースとケイトじゃねえか。どうしてオンボロ寮に人が集まってんのかオマエら知ってるのか?」
「人が集まってきた理由は……コレだよ」
 そう言ってケイトは、スマホの画面をグリムに見せる。そこに映っていたのは、先日ゴーストが撮影した写真だった。三人のゴーストとグリムが映った写真は、特に何の変哲もないように見える。
「写真の↓見てみて? 「いいね」の数……つまりグリちゃんたちの写真を評価してくれた数のとこ」
「「いいね」した人の数……って、い。一万!!??」
「嘘でしょ!?」
「信じられません……」
「この写真にどうしてそんな数が……」
 グリムだけでなく、その場にいる全員が評価数の余りの多さに驚きを隠せない。グリムはケイトのスマホが壊れたことを疑うが、さすがに表記バグではないだろう。実際、目の前に見物客が溢れているのだ。
「珍しいゴーストがばっちり映ってたら話題になるに決まってるじゃん? しかもまさかのゴーストの自撮り! マジカメでも人気の猫付き! そして時期はハロウィーン!! バズらないわけがないよね~」
 ナイトレイブンカレッジ内での生活しか知らないたちにとっては自然過ぎて、当たり前のように受け入れているゴーストの存在。確か一か月前に、リリアが外の世界ではゴーストは珍しいと言っていた。そう考えると、この光景は非常にレアなものなのだろう。
「オレ様猫じゃねー! ……っていうか、ゴーストの写真を見てるのは身内の五人って言ってたんだゾ。なのにどうして一万いいねももらえたんだ?」
「ゴーストの写真を偶然見つけた一人のユーザーが「いいね」をして……その人のフォロワーがいいねをしてまたその人のフォロワーが……と広がったらしい」
「ハロウィーンが近づくにつれてじわじわ人気に火がついてたみたいだけど……昨日有名マジカメグラマーに紹介されたのが決定打だったね。いいねの数が加速度的に増えてきてるよ」
 デュースとケイトの説明に、グリムは目を丸くする。
「ほあー……こんなにたくさんの人がオレ様の写真を……あ。オレ様ちょっと目を瞑っちゃってるんだゾ。本当はもっとシュッとしたイケメンなのに。今すぐ、もっとオレ様がカッコいい写真と差し替えるんだゾ!」
 いまいちことの大きさが理解できていないのか、グリムの反応はなんとも軽い。それどころか、写真の訂正まで希望している。しかし当然そんなことが出来るはずもないので、ケイトは丁寧にグリムへ現状を説明した。
 するとこちらのやりとりに気づいたのか、先ほどまでゴーストを囲んでいた見物客がグリムに視線を向ける。
「あっ! あれってゴーストの写真に載ってた猫ちゃんじゃない?」
「あ? 猫って……オレ様のことか!? オレ様は猫じゃねぇ。未来の大魔法士、グリム様なんだゾ!」
「しゃべった! 猫じゃなくてモンスターだったんだね」
「猫でもモンスターでもどっちでもいい! だって超かわいいんだもん~」
「可愛くねッ! オレ様はかっこいいんだゾ!」
「きゃーーー! うんうんかっこいい~~~!!」
 最初は抗議していたグリムも、ちやほやされているうちにその気になったのか勢いが下火になる。それどころか最終的にはゴーストに交じって、ポーズを取り始めた。当然見物客は大喜びでその姿を撮影する。
「オレ様、すげー人気者なんだゾ!!」
「こんなにチヤホヤしてもらえるなんて……ゴーストになってよかったのう!」
「ハロウィーンはなんて最高なんだぁ!」
「ゴーストもグリムも完全に調子にのってるな……でも、お客さんたちも楽しそうですね」
 完全に舞い上がっているグリムとゴーストたち。しかしその周りで彼らを撮影する人々は、非常に楽しそうな顔をしている。それだけでなく、ナイトレイブンカレッジのハロウィーン自体を楽しんでくれているのだから、これは喜ばしきことなのだろう。
「よかったですね、ダイアモンド先輩!」
 素直に喜ぶデュースとは反対に、ケイトは少し難しそうな顔をしている。
「……このまま無事にすめばいいけどなぁ」
 ぽそりと呟かれた言葉の意味を、今はまだケイト以外誰も理解出来なかった。


***


 オンボロ寮前での写真撮影がひと段落したあと、四人はようやくオンボロ寮の中に入ることが出来た。
「もしかして、期間中はずっとこんな感じなのかしら……」
「にゃはは! 人気者は辛いんだゾ!」
 辛いと言いつつ、グリムは満面の笑みを浮かべている。目一杯甘やかされ注目の的になったのがよほど嬉しかったらしい。
「最悪の場合、出入りは裏口を使うしかないかもね。ところで、その服どうしたの?」
「?」
 の指摘を受け、は自分の服を確認する。しかし変わったところは見受けられない。
「正面じゃなくて後ろ。落書きみたいなのがあるよ」
 は羽織っていたケープを脱いで指摘された場所を確認する。そこには、オバケらしき絵が描いてあった。
「落書き……あっ! たぶんあの時です」
 昼前に学園長の手伝いをしていたは、やたら子供に好かれ絡まれていた。きっとその時服に描かれてしまったのだろう。
「洗濯したら落ちるかしら? もし落ちない場合は洗浄魔法を使うけど、上手く出来るかしら……いっそのことマレウスに頼んでみる?」
「このままでだいじょうぶです」
「いいの?」
「はい。思い出なので」
 迷子になった子供たちとの交流は、大変ではあったが同時にやりがいも感じていた。それに、ハロウィーン実行委員に任命されたきっかけでもあるのだ。ならば思い出の一つとして、このままにしておくのもよいだろう。
「真っ白ないしょうもよかったですが、これでオリジナリティが出ました。せっかくですし、明日いこうもみなさんにかいてもらうことにします」
「確かに、これはこれで可愛いかもね」
 落書きだと思わなければ、なかなか味のあるデザインにも見える。それにこの先こういった絵を増やしていくなら、違和感なく紛れ込ませることが出来るだろう。
「あ! それなら、私たちも何か描いていい?」
「もちろんです!」
 、グリムはペンを持ってくると、各々の衣装に絵を描いていく。子供の落書きを囲むように描かれたのは、可愛いキャンディとリボン、そしてよれよれの魚だ。ワンポイントのような絵だけでもだいぶ個性が現れており、自然と笑みが零れる。
「ありがとうございます。オンボロ寮での大事な思い出が増えました」
 明日からまた増えるであろう思い出に想いを馳せて、は衣装を大事に抱き締めた。