闇の鏡に弾き返されたリドルとフロイドは、よろけながら立ち上がる。
「オーララ、おかえり。仲間を思う二人の情熱、トレビアンだよ!!」
 二人に手を差し伸べるルーク。リドルはルークの手を取りながら、顔を真っ赤にして怒りを露わにした。
「なぜ追い返されたんだ!?みんな闇の鏡に吸い込まれたんじゃなかったのかい!?」
「暴走するヌーか、テメェらは。招待状をよく読め」
 レオナが招待状を渡すと、二人はまじまじとそれを見つめる。パッと見は気づかないが、よく見れば下の方に小さく
※パーティーにはドレスコードがございます。主催でのご用意には数に限りがございますのであらかじめご了承ください
と記載されていた。
「注意書きちっちゃ」
「こういう重要事項はもっと大きく記載すべきだ!」
 フロイドとリドルの意見は最もだが、今はそれについて文句を言っている場面ではない。
「しかし、ドレスコードとはなんだ?ナイトレイブンカレッジの寮服は、立派な礼服だろう。今のままでは不適切なのか。パーティーに相応しい服装とは、一体……」
「服のことなら俺に任せてもらう」
 声がする方へシルバーが視線を向けると、鏡の間にクルーウェルが入ってきた。その後からトレインも続く。
「クルーウェル先生にトレイン先生、来てくださったんですね!」
 リドルの表情がぱっと明るくなる。手詰まりの状況の中、先生が来てくれたのは心強い。
「ああ、ローズハート。オルト・シュラウドたちが我々を呼びに来たんだ。話は道中に聞かせてもらったが、お前たちだけでも無事で良かった」
「トレイン先生、学園の様子はどうでしたか」
「どの寮も人影一つ見当たりません。学園内にたくさんいたゴーストたちも消えてしまいました。やはり学園に残っているのは私たちだけのようですな」
 トレインの言葉に、学園長はがくりと肩を落とした。先生たちが無事だったのが幸いだが、今この場に残っている生徒はたったの十三人。大半の生徒は鏡にとらわれてしまい、あんなにたくさんいたゴーストすら居ない。闇の鏡は未だに黙り込み、真実を閉ざしたままだ。
「ところでクルーウェル先生、先ほどの発言はどういう意味でしょう?」
 クルーウェルに問いかける。寮服がドレスコードとして不相応だとしたら、果たして何が正解になるのだろう。
「クローバーから招待状の話は聞いた。ハロウィーンパーティーにはドレスコードがあるそうだな」
「はい。ですが寮服は相応しくなかったようで、あそこの二人は追い返されました」
 は鏡の前で不服そうに立っているリドルとフロイドに視線を向ける。クルーウェルはそちらを一瞥すると、指示棒をビシリと鳴らした。
「この駄犬どもが!当然だろう。パーティーにはそれぞれ「テーマ」があり、ドレスコードはそれを守るためにある。それを無視する不作法者は、パーティーに参加する資格などない!!!」
「な、なるほど」
 クルーウェルの勢いに気おされたリドルは、控えめに同意する。
「俺の言うことが理解できたなら目をつぶれ」
「え?」
「なぜ目を……」
 突然の要求に、今度はリドル以外の者も不思議そうに首を傾げる。一体何故ドレスコードのテーマからそこに至るのだろうか。しかしクルーウェルはそんな様子などものともせず、更に言葉を重ねる。
「ビークワイエット!キャンキャンと鳴くな、さっさとしろ」
 わけけもわからず目をつぶる生徒たち。すると、瞼越しに魔法の煌めきが映る。次いで、全身を不思議な感覚が撫でた。
「この服は……」
 あっという間にその場にいた生徒全員の服装が、ハロウィーンのパレードで纏っていた衣装に早変わりする。だがあの時の簡易的な縫製と違い、しっかりとした作りになっているようだった。
「お前たちがパレードで着た衣装に魔法をかけたんだ。元はショーのための簡易的な作りだったようだが、魔法で手を加えている分、これなら長時間の着用も可能だ。耐久性は保証しよう」
「確かに、パレードで着たときと比べて動きやすくなってるね」
「これなら存分に戦えるな」
 リドルの言葉にシルバーが頷く。遠目からそれなりに見えればいいパレードとは違い、今回は戦闘も伴いかねない。用心するに越したことはないだろう。
の衣装は、先ほど消えてしまった生徒の服を拝借している。背格好が似ている生徒のものを選んだから、サイズは問題ないはずだ」
「はい、お陰様で」
 は少し驚いたような様子だったが、すぐに状況を飲み込んで返事をした。元々ハロウィーンに参加していなかったは、個別の衣装を用意されていない。だが幸か不幸か消えてしまった生徒は大勢いる。だから問題なく用意できたのだろう。
 だがそんな中、だけが納得のいかない顔をしていた。
「……私の衣装、直っていないのですが……」
 の衣装は業者の縫製ミスにより、大胆なスリットが入っていた。直前に気づいたせいもあり、パレードの時は縁を繕うだけに留めていたのだが……これはご丁寧に、仮縫いの部分が綺麗に整えられていた。だがそれでは意味がないのだ。
「今から私も別の生徒のものと変えてくださ……」
 だがクルーウェルにが声を掛けようとした瞬間。鏡の間の扉が、今度は勢いよく開かれた。