エースの後を追い、学園長室に集まっていた面々は急いでオンボロ寮へと向かう。
「トレイ!セベク!」
どうやら二人は無事のようだ。だがなぜかマジカルペンを構えており、緊迫した空気が漂っている。
「くそっ!逃がした!」
「逃がした?誰かいたんですか!」
「怪しい人影がオンボロ寮の周りをうろついていたんだ!あと一歩の所まで追い詰めたんだが、魔法で反撃されて……逃げられてしまった」
セベクの発言に、学園長が辺りを見回す。だがすでに犯人は去った後で、足取りを辿ることは不可能だった。
「怪しい人影……やはりこの現象は人為的なものと断定してよさそうだね。顔は見たかい?」
「いいや、フードを深く被っていて、顔は見えなかった」
ルークは注意深く警戒をしながら、オンボロ寮の周囲を観察する。だが魔法の残滓はあれど、何か手掛かりになりそうなものは見当たらない。どうやら相手は相当の手練れらしい。
「あーくそ!もうチョイ早く寮長たちを連れてこられれば、捕まえられたかもしんないのに!」
エースは歯噛みすると、オンボロ寮の柵に拳をぶつけた。声には後悔の色が滲んでいる。トレイはそんなエースの肩を叩いた。
「いや、お前は十分やってくれた。三人がかりでも敵わない相手だと瞬時に判断して、助けを呼びに行ってくれたんだろう?相手が逃げて行ったのは、学園長たちの気配を察したからだ。もしあのまま戦い続けていたら、正直俺とセベクもどうなっていたか分からない」
「何か犯人に繋がる手がかりのようなものはありませんか?」
学園長の問いに、トレイはポケットから一枚のカードを取り出した。
「……これを見てください」
「カード?何か書いてあるね」
リドルがそれを受け取り中身を読み上げる。そこには招待状の文字と
『会場にて待つ。ナイトレイブンカレッジの生徒諸君、皆でハロウィーンパーティーを楽しもう』
との文句が綴られていた。
「オンボロ寮の門の隙間に挟まっていたんだ。それで慌てて中に入ったんだが……」
「ももグリムも、も……もうどこにもいなくて……いつものゴーストたちもいねーし、不気味なくらい静かでした」
言い淀むトレイに、エースが沈痛な面持ちで言葉を続ける。エースの言葉が本当なら、オンボロ寮は居住者の全てが誘拐されたことになる。
「人が住んでいるなんてとても思えない外観ですから、絶対に襲われないと思っていたのに……はっ!そういえば、ディアソムニア寮がハロウィーンの展示で、オンボロ寮を使うにあたって看板を立てていましたね。みなが姿を消したのは「人が住んでいる」と知らしめてしまったせい…?」
学園長の推察に、シルバーは目を背けた。元々は迷惑を掛けないようにと善意で立てたものが仇になってしまうとは。
「大丈夫だよシルバー。これは君のせいじゃない。招待状なんてわざわざ用意しているあたり、元々ここは狙うつもりでいたのかもしれない。その場合、結果は同じだったと思うよ」
は優しくシルバーに声を掛ける。学園長の話だってあくまで推測なのだ。全責任をシルバーが負うのは間違っているだろう。
「しかし……」
「どうやら犯人は、よほどボクたちを挑発したいらしい!!」
更に言い募ろうとしたシルバーの言葉を遮り、リドルが怒髪天を衝く勢いで叫ぶ。
「気持ちは分かるぞ、リドル先輩!!マレウス様に仇をなすだけでは飽き足らず、それを楽しむような文面……僕たちを侮辱するにもほどがある!!!」
「ふぅん、招待状ときたか。俺たちを学園に閉じ込めておいて”招待”とは……随分とナメた真似してくれるじゃねぇか」
リドルと同じくセベクも怒り心頭といった様子で招待状を睨みつける。レオナはまだ冷静なようだが、言葉の端には明らかな怒りが滲んでいた。その場にいる全員が、招待状を送った相手に対して明確な敵意を持ったその時。
「──複数の生体反応を感知。接近します!」
「おや?こちらに凄まじい速さで飛んでくるのは……」
風を切る音と共に、オルトがオンボロ寮へと降り立つ。
「学園長、みんな!ここにいたんだね!」
「シュラウドくん?どうしたんですか。貴方は鏡の間にいるはずじゃ……」
「その鏡の間が大変なんだ!」
「ええっ!?」
オルトの慌てようから察するに、想定外の事態が向こうでも起こったことは想像に難くない。学園で一番安全だと言われている場所だっただけに、学園長も驚きの色を隠せていないようだ。
「みんな、今すぐ鏡の間に向かって!僕はほかの先生たちを呼んでくる!じゃあ!」
「待て!まだ近くに怪しい者がうろついているかもしれない。単独行動をするのは危険だ」
オルトを引き留めるシルバー。確かにここまでいっぺんに想定外の事が起きた状態だと、オルト一人で向かわせるのは危険だろう。
「トレイくんたち、オルトくんと共に先生たちを探してきてくれるかい?」
「了解!」
ルークの指示を受け、トレイ、エース、セベクが頷く。
「他の皆さんは急いで鏡の間に向かいましょう!」
学園長の号令で、残りの者は一旦鏡の間へと向かう事になった。