生徒が行方不明になっていたのは、ディアソムニア寮だけではなかった。他寮の様子を確認してきたシルバー、セベク、の三人はディアソムニア寮に戻りと情報交換をした後、学園長室へと赴く。そこには学園に残った生徒が集められており、皆不安そうな顔をしていた。そんな中、緊迫した空気を打ち破る様に学園長が口を開く。
「みなさん、お静かに!各寮、順番に状況を報告してください」
まずはルークが一歩前に出て、ポムフィオーレ寮の状況を説明する。次いでジャミルがスカラビア寮。この二寮は寮長に加え、寮生の半数が消えてしまっているようだった。状況が更に悪いのはオクタヴィネル寮、イグニハイド寮で、寮長、副寮長を含めた過半数の寮生が消えてしまったという。話を聞く限り、ディアソムニア寮と同じ状況だ。続くサバナクロー寮、ハーツラビュル寮も同様に被害に遭っており、実にナイトレイブンカレッジの三分の二の生徒が消えてしまったようだった。
「皆さんご存じの通り、現在学園はかつてない非常事態に見舞われています。生徒が消えてしまったことに加え、いかなる手段を使っても、学園から外へ出ることができない。そして、さらに驚くべきことは……」
「”時間”だね」
学園長の言葉を引き継ぎ、ルークが言葉を紡ぐ。
「時間?なんのことだ?」
意味が分かっていないセベクは、不思議そうな顔をする。それはほかの生徒も同じようで、わけがわからないと言った顔でルークを見つめていた。
「みんな、今、何時だと思う?」
「きゅ、急になんすか?ええっと今は……って、スマホは使い物にならねーんだった。時計持ってないや」
「ボクが目を覚まして部屋の時計を見たときは、0時直前だった。それから寮の中を探して、ここに集まって……だから今は、だいたい深夜1時すぎじゃないかな」
エースに代わり、リドルがルークの質問に答える。だがリドルの言葉に、学園長は沈痛な面持ちで首を振った。
「私の机の上にある時計を見てください」
「……あれ?」
机の上にある時計は、未だに23時59分を指している。それどころか、その時刻から一向に動く気配すらなかった。
「あっ、僕もおかしいと思ってたんだ!11時半から3時間のアップデートをしたはずなのに、起動したら11時59分だったんだよ。兄さんがいなくなったから不具合が起こったのかと思ったけど……あれはエラーじゃなかったってこと?」
「ああ、混乱するのも無理はない」
オルトの発言に、ルークは言葉を続ける。
「睡眠時と言うのはどうしても無防備になる分、自分が何時間寝たかを体感で把握するのは難しいだろう。だが私は自分がどれだけ眠ったか、誤差10分の範囲で検討が付けられるんだ。昨晩は11時に眠りについて、異常を感じて目を覚ますまで6時間眠ったんだ。それから状況を把握して、移動して……本来なら、現在朝の6時は回っているはずだ」
ルークの言葉を信じるのなら、とっくに日が出ている時刻である。しかし外は未だに暗く、空には月が浮かんでいた。セベクとシルバーの指摘に、ルークは言葉を更に重ねる。
「時計は動かないし、夜も明けない……。どうやら学園の”刻”そのものが止まってしまったようだ」
「じ、時間が……止まっているだって…!?」
にわかに信じられない話に、一同はみな目を丸くする。だがは思うところがあったのか、それに賛同の意を示した。
「私もその意見が正しいと思います。学園内から出ようとしたときの戻り方といい、まるで巻き戻されているような感覚がありました。学園内を取り囲む結界も、普段のそれを変異させたような気配があります」
「………」
黙ったまま状況を見守っていた学園長が、重々しく口を開く。
「……詳しいことは、原因を調べてみなければわかりません。しかしこの状況は……十中八九、ハント君の言う通りでしょう。くんの見立ても、我々の見解と一致します」
にわかに信じられない事態ではあるが、現状を見る限りはそう考えるのが自然である。しかしここまでくると、偶然にしては出来過ぎている点が多い。
「この状況は人為的である可能性が高いな。何者かに攻撃を受けていると考えた方が良いだろう」
「やはり刺客か……!マレウス様が籍を置かれるこの学園になんて不遜なことを!」
ジャミルの言葉に、セベクは怒りを露わにする。
「ナイトレイブンカレッジには、レオナさんやマレウスさんみたいな王子様の他にも、富豪やらタレントやら、有名ドコロがわんさか在籍してますからねぇ。狙われるのも納得っつーか」
ラギーの意見は最もだ。マレウス以外にも、その名を世界に馳せる生徒がこの学園には多数在籍している。狙われる可能性だけなら十二分にあるのだ。
「だけど、ケイトやデュースのような一般家庭出身の生徒も大勢いなくなってるぞ」
「確かに。将来有望な魔法士を潰さんとする者たちの犯行である可能性も捨てきれないな」
トレイ、リドルの意見も筋が通っている。このままだと、現段階で犯人の目的を見つけるのは至難の業だろう。
「あ、そっか。ハロウィーンがまだ続いてるってことじゃん」
各々が頭を捻らせる中、フロイドが口を開く。
「日付が変わってないってことは、まだ10月31日だろ。ハロウィーンは終わってないんだよ」
「……ふざけているのかい?今そんなことを気にしている場合じゃないだろう」
学園を揺るがす一大事に対して、あまりにも荒唐無稽な発言に噛み付くリドル。だがフロイドはそれを意に介さず、言葉を続ける。
「別にふざけてるわけじゃねーって。ウチの生徒とかその親になにか仕掛けたいなら、わざわざ10月31日で時間を止める必要はないじゃん?それをするってことはぁ……犯人は、ハロウィーンを終わらせたくない奴ってことじゃねえの?」
「ナンセンスだ!そんなことをして一体なんになる!?」
「いや、オレ犯人じゃないから知らねーし。でもハロウィーンってすげー楽しいじゃん。終わらせたくね~なって思うやつがいても、不思議じゃなくね?」
間髪入れずにリドルは反論するが、フロイドの意見も一理ある。皆が更に頭を悩ませていると、ハっとした顔をしてエースが叫んだ。
「えっ、ちょ、ちょっと待って。じゃあこのままだと永遠にハロウィーンが終わらないってこと!?」