シルバーがセベクの部屋につき、無事を確認した後。ディアソムニア寮から鏡舎に降り立った二人は、まず正門へと向かった。
「……なぜだ。なぜナイトレイブンカレッジから出られないんだ!?」
セベクは何度も正門の開錠を試みるが、押しても引いても魔法でも、門はびくともしない。それどころか、門を乗り越えたところで着地する瞬間に学園に舞い戻ってしまうのだ。
「学園全体に強力な魔法がかけられているようだ。……やはり、俺たちだけではどうにもならないか」
一方シルバーは冷静に正門を調べているが、こちらも同様に開く気配がない。このままでは埒が明かないし、今はの合流を待った方がいいだろう。
だがセベクはマレウス達の不在で気が立っているのか、どんどん暴走していく。
「こんなところで時間を無駄にしている場合ではないというのに!」
「落ち着けセベク」
門をこじ開けようと躍起になるセベクを、シルバーは窘める。
「これが落ち着いてなどいられるものか!マレウス様とリリア様のお姿が見れないんだぞ!!!茨の谷を狙う他国の策略に違いない。こうしている間に、もし若様の御身になにかあったら…ああ!」
「………」
確かにマレウスの行方不明は、国際問題に直結する一大事だ。だが、果たしてこれは本当に"そう"なのだろうか。の話によると、マレウスとリリアの他にも行方不明になった生徒は多数いる。目くらましに連れ去ったとしても、人数が多すぎるのではないか。
「今頃きっと僕たちの助けを待っているはず。よし!上が駄目なら下だ!土を掘って門をくぐるぞ。シャベルだ、シャベルを探せ!」
「………」
「おいシルバー!ボーっとするな!!お前も手伝え!!」
「セベク、止まってください」
「っ!様!」
セベクとシルバーが振り返ると、一足先に捜索していたが魔法の煌めきと共に降り立つ。
「裏門や抜け道も全て見てきましたが、どこも同じような状態でした。この様子だと地下も同様でしょう」
学園を一周してきた曰く、大小全ての出入り口が魔法的な何かで封鎖されている以外は、全く異常がなかったらしい。マレウス達の行方も未だに掴めてはいないし、これでは完全に手詰まりだ。
「そうか……仕方ない。ここは一旦他寮の様子を見に行こう」
「は?……今なんと言った?僕たちはマレウス様の護衛だ。最優先はマレウス様の安全。その他に選択肢などない!」
シルバーの提案をすぐさま否定するセベク。確かに護衛である三人の最優先事項は、マレウスの安否確認である。しかしこのままここに居ても、問題解決には至らないのも事実だ。
「学園内がにわかに騒がしくなってきた。問題があったのはディアソムニア寮だけではないらしい」
「なにっ?」
「まずは状況を確かめよう。お二人を追うのはその後だ」
「だが……」
なおも言い募ろうとするセベクを、今度はが窘める。
「私もシルバーに賛成です。私はもちろん、マレウス様や叔父様にすら気取らせなかった魔法です。体制を立て直す事も必要かと」
「様がそう言うのなら……」
の意見を聞き、セベクはようやく状況を受け入れた。
「俺たちはすでに後手に回ってしまっている。まずは状況を把握することが大切だ。他寮の様子を確認次第、ディアソムニア寮へ戻って先輩に報告しよう」
「くっ……わかった。若様!どうかご無事で!!」
セベクは天に向かって大きな声で叫ぶと、今度は一目散に鏡舎へと駆けていく。
「しかしこれは……ただ閉じ込められたと言うより、戻されているような……」
門に手を添えながら呟く。
違和感はあるが原因が特定出来ない。そんな気持ちの現れか、はもどかしそうに頭を振った。
「、どうかしたのか?」
「いいえ、何でもありません。それより早く行きましょう」
「ああ」
シルバーとは、急いでセベクの後を追った。