「ひいい!あちちっ!魂の髄まで燃えてしまいまする~~!!助けてたもれ~~~!」
リドルの炎の魔法が直撃すると、ゴーストは大慌てでその場から離脱した。
「ふん、もう退散かい?口ほどにもないね!」
「いやいやいや、リドルくんに全力でこられたら大抵のヤツは尻尾を巻いて逃げるしかないッスよ」
なんせ学年トップの実力者の魔法なのだ。一介のゴーストなど、それこそ燃え尽きてしまうに違いない。
「しかしあのゴースト、"あのお方"のところへボクたちを連れて行くとか言っていたけれど……」
「わざわざ生きた人間と指定しているあたり、今回の首謀者と関わりがあるのは明白ですね」
「悪の親玉の匂いがプンプンじゃないッスか」
「さっきのゴーストを捕らえて尋問したかったが、さすがはゴースト、姿を消すのが早い」
「もし今度遭遇した場合は捕縛魔法を使ってみますか?」
「そうだね、だが通常通りだとすり抜けてしまうだろうから、それを応用して……」
リドル、、ラギーが相談している中、オルトは黙ったまま思案している。霧のかかった墓地に、不気味な満月。時間は止まり、はっきりと姿を現しているゴースト。そこから導き出せる、一つの答えは。
「ここ、ゴーストの世界だ!」
「ゴーストの世界!?」
オルトの言葉に驚くリドルとラギー。一方、ははっとした顔をした。
「そうですゴースト!私が以前養父に聞いた話も、ゴーストの世界の話でした」
「それってつまり、あの世ってこと!?生きたままあの世に来ちゃったんスか、オレたち!?」
「かつて養父は臨死体験をして、ここと似たような場所へ訪れたことがあるそうです。その話を鑑みるに、その線が妥当かと」
「嫌ッスー!!オレまだ死にたくない!!」
慌てふためくラギーとは対照的に、リドルは落ち着いて状況を整理する。
「なるほど、それなら人見の鏡が通じないのにも納得がいく。いくら魔法道具といっても、あの世との通信は想定されていないだろう」
「納得してる場合ッスか!?ああもう最悪。いくらホリデーのためとはいえ、ガラにもなくトラブルに首を突っ込むんじゃなかった。命あっての物種なのに……なにか光った!!!!」
自分以外は存外冷静なせいもあり、ラギーは頭を抱えて不満を口にする。しかし次の瞬間、地面に光るものを見つけてすぐさまそれに飛びついた。
「はっ早い!」
「さっきゴーストの攻撃を避けていたときよりも俊敏だった気がするよ」
周囲の反応もお構いなし。ラギーは光った何かを拾うと大事そうに土を払い……それの正体に気づくと、あからさまに落胆した表情を浮かべた。
「なーんだ。ただの鏡の破片かあ。コインかと思ったのに」
「キミこそ十分いつも通りじゃないか……拾ったもの、ボクにも見せてくれるかい?」
「いいッスよ。もう要らないんで」
ラギーはなんの未練もなくリドルにそれを渡す。鏡の欠片は親指の爪程しかない、非常に小さなものだった。
「さっき逃げたゴーストが落としていったのかな?」
リドルと同じようにそれを眺めるオルト。鏡の欠片は満月を反射してキラキラと輝いている。これならラギーがコインと見間違うのも無理はないだろう。
「鏡の他にも何か落ちているようですね。これはメモでしょうか?」
は戦闘で半ば土に埋もれてしまっていた紙を拾い上げる。それはオンボロ寮にあったものと同じ作りの招待状で、このような記載がされていた。
『皆でハロウィーンパーティーを楽しもう。そのために、各自必ず"鏡の欠片"を持参のこと』
「鏡の欠片と言うのは、先ほど拾ったそれのことでしょうか?」
「特に変わった点はみられないけど……ゴーストにとっては、何か重要なものなのかな?」
わざわざ持参を指定するあたり、見た目に反して重要なものなのかもしれない。
「今はわからないけど、とりあえず持っていた方が良いようだね。これはボクが預かっておくよ」
リドルは招待状と鏡の欠片をポケットにしまった。
「それより、次はどこに進むべきかな。さっきのゴーストは消えてしまったし……」
どこに進むのが正解なのはわからないが、この場に留まっているわけにもいかない。もしかしたら、先ほどのゴーストが仲間を連れて戻ってくる可能性もある。
「ゴーストは生きた人間を探していたし、このままうろついているのも得策ではないだろう。あそこに霊廟があるから、そこでいったん体制を整えよう」
「了解です……その前に、少しいいですか?」
は見晴らしの良い場所にある墓石に近づくと、マジカルペンを構え──容赦なく墓標に傷をつけ始めた。
「!?キミ!いったい何をしてるんだい!!」
「墓石に傷って罰当たりすぎッスよ!」
リドルとラギーが慌てて止めるが、は特に気にするでもなく作業を続ける。
「ここがゴーストの世界なら、この下に眠っている者はいませんよ」
「確かに理論は分かるが!だがいくらなんでも……!」
なおも言い募るリドルに、は一旦作業を中止して向き合う。
「招待状の話が本当なのなら、他のメンバーにも伝える必要があるでしょう?それを書き記そうかと思いまして」
「なるほど?」
の意見も一理ある。しかし墓標に刻まれた文字列は、一見すると不規則な模様にしか見えない。言葉を記載するならまだしも、これなら意味がないのではないだろうか。そう言いたげなリドルに、は続けて答える。
「私たちが招待状を持っていると、ゴーストに知られるのは得策ではありません。ですから、暗号として残します。全員はわからなくとも、シルバーとセベクと……あとクローシュ先輩はリリア先輩から聞いてるはずなので、解読可能かと」
「暗号?このタイプは初めて見た!」
「父と養父が戦場で使っていたものです。幼少期に習いました……これで良し。終わりました」
オルトの疑問に受け答えしつつ、は最後の一文字を墓標に刻み付けた。どうやら無事記入できたらしい。
「あの霊廟へと向かうんですよね?早く行きましょう」
「あ、ああ」
「わかったッス」
足早に霊廟へと向かうの後にオルトが続き、その後をリドル、ラギーが続く。が霊廟の扉を開けると──突然、四人を眩い光が包んだ。