交際公認ゲットかも?



日に日に近づいてくる夏の気配。それに合わせて空の青さも深みを増しているのが見て取れた。
「いい天気ー…」
のんびりと空を眺める
「そうだね」
につられてダイゴも視線を空へ移す。

ここはムロタウンから少し離れた入り江。
近くには石の洞窟に通じる道があり、修行場所としても申し分ない。一緒に居られればそれでいいと考えている二人にとってはまさに絶好の場所で、定番のデートスポットになっていた。今は丁度お昼を食べ終わったところだ。
「こんな天気の日は日向ぼっこして過ごすのもいいかも」
「たまにはそれも悪くないね」
「あ、でもそれだと……ん?」
穏やかな空気を打ち破り、高らかに響く着信音。
のポケギアがピカピカと光る。
「誰からだろう……え゛っ…」
ポケギアに表示されている名前は“お父さん”。は盛大に引きつった顔をする。
「お父さんからだ…ちょっとごめんね」
「大丈夫だよ」
そそくさと岩場の奥へと走っていくの背中を見送るダイゴ。
(それにしても、さっきのの顔は何なんだ…?)
彼女の父親であるセンリは、トウカジムのジムリーダーだ。その実力はさることながら、己に一切の妥協を許さず、常に切磋琢磨する姿は誰からも尊敬されている。もちろん自分だってその姿勢を見習いたいと思うし、それはだって同じはず。なのに何故。
そんなことを考えていると、が通話を終えて帰って来るのが見えた。酷い顔だ。
「ダイゴ…とてつもなく面倒なことになったよ……」
「何か問題でもあったのかい?」
「お父さんに呼ばれた」
「………えっ?」
それのどこが面倒なのだろうか。いまいちの意図が掴めない。
「お父さんに呼び出し食らったの……あはは……」
乾いた笑いを浮かべるの顔は半ば死にかけている。
「たまには帰って親孝行してあげればいいじゃないか」
自分だって人のことを言える立場ではないが、はセンリさんにとって大事な娘。一人旅を心配する親の気持ちがわからないわけじゃない。
「それだけならまだいいの。今回はね……ダイゴも呼ばれてるんだ」
「僕が?」
「そう。『交際相手を見せろ。変なやつだったら認めない』って」
「………」
それは面倒なことになった。





お父さんは前から「付き合う相手はまず自分に見せろ!」だの「世間的にまともな人間しか駄目だ!」だの、とにかく五月蠅かった。まぁいつかは気付かれるとは思っていたが、こんなに早くバレるとは。そんな半ば愚痴交じりの話をしつつ、二人はトウカシティを目指す。
お姉ちゃんお帰り!」
ジムの庭でハルカのワカシャモと遊んでいたマサトがに駆け寄ってきた。
「ただいま、マサト」
フライゴンから降りる。次いでエアームドに乗ったダイゴも地上に降り立つ。
「お疲れ様。ゆっくり休んでね」
「フラーィ!」
モンスターボールをかざしてフライゴンを中に戻す。
「お姉ちゃんの彼氏ってダイゴさんだったんだね!パパが『うちのをたぶらかすなんてどこの馬の骨だ!』って言ってたから、変な人を想像しちゃってたよ」
無邪気に笑うマサトに苦笑することしか出来ない二人。
「なんかとんでもない話に発展してるような…」
「みたいだね……」
収拾のつかないところまで話が大きくなっていないといいのだが。
「あっ、お帰りお姉ちゃん!ダイゴさんもお久しぶりです!」
ぺこりとお辞儀をするハルカ。
「久しぶりだね、ハルカちゃん」
ダイゴにっこりと微笑んで答える。
ちなみにハルカには報告済みだ。言わなくてもバレバレだったらしいが。ハルカいわく「女の勘は鋭いかも!」らしい。
「ねぇハルカ…お父さん、何か変なこと言ってなかった?」
「『もしろくな奴じゃなかったら、私の拳が火を吹くぞ!』とかなんとか言ってたかも」
「やっぱり……」
ぐったりと肩を落とす。想像通り大事になっている。
「で、でも、相手がダイゴさんだって知ったら案外OKしてくれるかも!」
「僕も認めてもらえるよう努力するから」
「ダイゴさんはホウエンリーグチャンピオンなんだよ?これ以上の相手は居ないって!」
「……うん、そうだよね!」
別にやましいことをしているわけではないし、ダイゴが認められないなんて考えられない。
「よし!行こう!」
は気を取り直してセンリの元へと向かった。





センリが待っていた場所はジム戦のフィールドだった。
入った瞬間にピリピリとした緊張感が漂ってくる。
「来たな、
威風堂々とした態度のセンリ。
「……来なきゃ地の果てまで追いかけるって言ってたじゃん」
「可愛い娘のピンチに駆けつけない親はいないだろう!」
「誰と付き合ったって構わないよでしょ!」
「変な虫がつなかいよう見守るのも親の仕事だ!!」
「常識を踏まえて言ってよ!!」
はぁはぁと互いに息を切らせる。
フィールドの端と端で口論したため、必然的に怒鳴り合いになっていた。
「…で、今回もまたバトル?」
「もちろんだ」
「バトル…?」
一人だけ話の流れについていけていないダイゴにハルカが耳打ちする。
「うちは何でもポケモンバトルで決着をつけるんです」
「前にお姉ちゃんが一人旅したいって言ったときも、バトルをして決めたんですよ」
「パパは負けたときに手加減したって言ってたけど、あれは絶対本気だったよね」
「絶対そうかも」
そのときのことを思い出したのか、おかしそうに笑う二人。
「だが、今回はお前と戦うわけじゃない。戦うのは……ダイゴ君、きみだ!」
「っ?!…僕、ですか?」
いきなり話を振られて驚くダイゴ。
「ちょっと!ダイゴは関係ないでしょ!」
が止めるが、センリは一切聞き入れない。
「私に勝てないようで、を任せられるわけないだろう!」
別にバトルが強いイコールまともな人なわけではないのだが、センリは頭に血がのぼっているためにそこまで考えが回らないらしい。
「パパー止めときなよー」
「ダイゴさんに勝てるわけないかもー」
「五月蝿い!!!」
ハルカとマサトの説得も、全く聞き入れる気配がない。
「チャンピオンだろうが何だろうが関係ない!むしろそんな称号があるからこそ傲っているかも知れないだろう!」
「………」
ダイゴは何も答えず、静かにセンリの話を聞いている。
「その立場に甘んじず、日々精進しているかどうかを見極めさせてもらう!!」
「……わかりました」
しばしの沈黙の後、ダイゴは毅然としてそう答えた。
「その勝負、受けます」
ここまで言われて黙っているなんて男が廃る。
「こんな馬鹿げたこと無視していいんだよ?!」
慌てて止めに入る。どうにか言いくるめて自分とのバトルで済ますつもりだったが、まさかダイゴが乗ってしまうとは。
「どうせいつかはこうなっていたのなら、早く決着をつけたほうがいい」
「でも…!」
「大丈夫、僕が負けると思ってるのかい?」
「まさか!」
間髪入れずに答えるに、思わず笑みが零れた。
「じゃあ信じて」
真剣な瞳の中に、ダイゴの秘めた闘志が垣間見える。その眼差しには折れた。
「……わかった。だってダイゴは『一番強くて凄い』んだもんね」
「そうだよ」
クスクスと笑いあう2人。
「決心はついたのか!」
フィールドの対向から聞こえる声に促され、ダイゴはセンリと真っ直ぐ向き合った。
「はい。貴方に勝って、は僕がもらいます」
「そんな大口を叩いたことを後悔させてやろう!」
「その言葉、そっくりお返ししますよ」
両者がバトルフィールドに立った。
間に流れる空気が張り詰めていく。
「これより、トウカジムジムリーダー・センリと、ホウエンリーグチャンピオン・ダイゴとのバトルを始める!使用ポケモンは一体!どちらかが戦闘不能になったことにより勝敗を決する!」
高らかに響く審判の声。
「それではバトル開始っ!!」


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2010.05.30 掲載
2021.05.16 加筆修正