「バトル開始っ!!」
高らかな宣言と共に、2つのボールがフィールドに投げられた。
「いくんだ!ケッキング!!」
「頼んだぞ!ボスゴドラ!!」
ケッキングがどすどすと地面を踏み鳴らして威嚇をする。それに対抗してボスゴドラは地を震わすような雄叫びをあげた。
「ボスゴドラ速攻だ!『メタルクロー』!!」
ケッキングは特性の『なまけ』により素早い攻撃が出来ない。それを利用しダイゴは先手を取った。重量を感じさせない速さでボスゴドラはケッキングに突っ込んでいく。
「ケッキング!受け流せ!」
絶妙なタイミングでボスゴドラが繰り出す鋼の斬撃を流すケッキング。
「そのまま『アームハンマー』を叩き込むんだ!!」
攻撃を流されたことで体制を崩したボスゴドラに、強力な拳が繰り出される。『アームハンマー』はかくとう技。効果は抜群である。
「耐えろボスゴドラ!『メタルバースト』で反撃だ!」
ボスゴドラはケッキングの攻撃によろけながらも、すぐに立て直して『メタルバースト』を発動する。溢れんばかりの閃光と共に、爆風が直撃した。ケッキングはそのままフィールドの反対側まで飛ばされる。
「ふんっ!なかなかやるな」
「攻撃されてばかりじゃいられませんからね!」
両者のポケモンが立ち上がる。バトルはまだまだはじまったばかりだ。
「2匹とも、凄く強いかも…」
「ノーマルタイプのケッキングと、はがねタイプのボスゴドラ…タイプ的にはダイゴさんの方が有利だけど、どっちが勝ってもおかしくないよ!」
ハラハラと戦況を見守るハルカとマサトに対し、は冷静にバトルを見つめていた。
「うん。でも、ダイゴは負けない」
眼前で繰り広げられる壮絶なバトル。
「絶対に勝つよ」
の視線の先に映っているのは。
「……いいな、私も恋してみたいかも」
「ハルカお姉ちゃんには無理だよ」
「なんですって!」
バトルはどんどん白熱していく。
「実力はあってもの男としては認めん!『なげつける』だ!!」
センリの言葉に俊敏に反応する様子は、ものぐさポケモンの名を一切感じさせない。さすがジムリーダーのポケモンと言うべきだろう。
「ボスゴドラ!『きあいだま』で受け止めろ!!」
2匹の技がフィールド中央でぶつかり合う。砂煙が吹き荒れ、両者の視界を奪った。その一瞬の隙を突き、センリは間髪いれずに技を指示する。
「今が勝機だ!ケッキング、『じしん』!!」
砂塵の舞い上がるフィールドがグラグラと揺れだした。震源であるケッキングは全身を使って大地を震わせる。
「はがねタイプのボスゴドラには効果は抜群だよ?!」
「さっきのダメージも大きいし…このままじゃ負けちゃうかも!」
「大丈夫!」
だってダイゴはまだ諦めていないのだ。
『信じて』
そう言われた自分が信じなくてどうする。
「絶対に大丈夫…!」
程なくして、ケッキングの『じしん』が収まる。だがフィールドには未だに砂煙が立ち込め、互いのポケモンの安否を確認することさえままならない。
「ボスゴドラ!『きあいだま』!!」
ダイゴの声がフィールドに凛と響く。
「ゴドーッ!!!」
ありったけの気合いを込め、ボスゴドラは技を繰り出す。ボスゴドラの放った『きあいだま』は、的確にケッキングに当たった。
ケッキングの体が、今度はフィールド外まで吹き飛ばされる。
「何っ…?!」
効果抜群であるかくとう技、『きあいだま』をもろに食らったケッキング。
「………」
しばしの沈黙が流れるが、ケッキングは動かない。
勝敗が決した。
「ケッキング、戦闘不能!!」
「何故だ…?!」
呆然と立ち尽くすセンリ。
「ダイゴっ!!」
そんなセンリの様子を気にも止めず、はダイゴに抱きついた。
「だから信じてって言っただろう?」
「うん!」
満面の笑みを浮かべるにつられ、ダイゴも微笑む。
「ボスゴドラもありがとうね!」
「ゴドッ!」
の言葉に頷くボスゴドラ。
「パパに勝っちゃうなんて、さすがダイゴさんかも!」
ハルカとマサトもフィールドに降り、ダイゴの健闘を称える。
「でもダイゴさん、なんでボスゴドラは『じしん』を受けても平気だったんですか?」
バトルの結果が腑に落ちないマサトはダイゴに尋ねる。
「ケッキングが『じしん』を繰り出したとき、ボスゴドラにも同じ指示を出したんだ」
「『じしん』を相殺したってこと?」
「そうだよ」
ケッキングとボスゴドラの『じしん』はフィールド中央でぶつかり合い、その威力を弱めた。それでボスゴドラは無事だったのだ。
「でも、場所まではわからないかも!」
砂煙でケッキングの場所を目視することは出来なかったはず。ハルカも疑問を投げかける。
「それは、震源から場所を割り出したんだよ」
「震源?」
「『じしん』が起きている場所にケッキングはいる。目で見えないから、そこに狙いを定めたんだ」
まぁ一番は頑張ってくれたボスゴドラのお陰かな。そう言ってダイゴはボスゴドラの頭を撫でた。
「………完敗だ」
センリが重々しく口を開く。
「戦況をしっかりと見極め、的確な判断をくだす。チャンピオンとしての驕りも無い」
そして少し躊躇い、諦めたように告げる。
「交際を…認めよう」
その言葉に、センリ以外の者の顔が綻んだ。
「おめでとうお姉ちゃん!」
「うん!ダイゴありがとうっ!!」
「ううん。君がいたから頑張れたんだよ」
「すっごく素敵かもっ!」
「………」
和気あいあいとした空気の中、センリの背中が物悲しい雰囲気を醸し出している。
「そういえば……お父さんって、どうやって私たちが付き合ってるって知ったの?」
お父さんの前でそういう素振りをしたことは一切無い。
お母さんやハルカが教えるなんてあり得ないし、どこから漏れたのだろう。
「あぁそれか……この前ミクリくんが電話でな」
もうどうにでもなれと思っているのか、センリは半ば投げやりに答える。
それよりも今、とんでもない人の名前を聞いたような。
「『この前さんと男が2人っきりで歩いているのを見たのですが、どなたかご存知ですか?』と教えてくれたんだ。いや、ミクリくんが教えてくれなければ危なかった。彼には感謝しなくては」
うんうんと一人で頷くセンリ。
「………」
「………」
とダイゴの目が据わる。
「こんな面倒なことになった原因ってミクリさんだったんだ…」
「ミクリの奴……前からやたら関連で邪魔をするなと思っていたが、ここまでとは」
ミクリのしてやったといった顔が脳裏を過ぎり、無性に苛立ちが募る。
「、今からルネシティにでも行ってみようか」
「奇遇だね、私も行きたいなって思ったんだ。ミクリさんに挨拶してこなきゃ」
顔を見合わせてクスクスと笑い合う。だがそこにはさっきまでの優しげなものとは似ても似つかない、黒いオーラが浮かんでいた。
「じゃあ行こうか。センリさん、ご指導ありがとうございました」
「ハルカもマサトも元気でね」
あっという間に行ってしまう2人。
「なんか、凄かったかも……」
「ミクリさん大丈夫かな」
「これが親離れか……」
各々別のことを考えつつ、呆然と2人を見送る3人。
センリの言葉は、それはそれは哀愁を帯びてジム内に響いていた。
その後、ダイゴとに追われて必死で逃げるミクリが目撃されたのは、また別の話。
交際公認ゲットかも!
「そういえば、はなんでセンリさんのことを『お父さん』って呼んでるんだい?」
「えっ、何で?」
「だってハルカちゃんやマサトくんは『パパ』って呼んでただろう?も昔はそう呼んでたのかと思って」
「昔は呼んでたんだけどね…私がハルカくらいのときに『パパ』は子どもっぽいて言われたのが嫌で、それから呼ばなくなったの」
「別にそうでもないと思うよ?」
「それもそうなんだけど…それから『パパ』って言うのが無性に気恥ずかしくなっちゃって」
「…ふーん」
「そう言えば…前に『パパ』は恥ずかしいってお父さんに言ったらすっごくショック受けてたな…」
「………」
「あ、五月蝿くなったのってその頃からだったかもしれない」
「………」
(センリさんがああなった理由って、にもあるのかもしれないな……)