ぬくもりの季節



冬は苦手だ。理由は単純明快。装甲と生体の繋ぎ目が冷えてしまうから。そうならないよう回路を稼働し常に一定の温度を保てればいいのだが、少しでも怠ればすぐに手足は氷のように冷え切ってしまう。だがこの事象自体は大した問題ではない。自分が冷たいと感じるだけならば、そういう現象なのだと割り切ることが出来る。
でも今は違う。がボクに触れてくるたびに、この凍えるような冷たさが嫌になるのだ。
「………」
目の前には、雪を楽しそうに眺めるの姿。自身に内蔵されているサーモグラフィーで確認すれば、体温を外気に奪われ次第に身体が冷えていく。冬なりの寒さを満喫していると言えば聞こえはいいが(実際雪を見たいと外へ出る提案をしてきたのは彼女だ)、こうやって下がっていく体温を見ていると不安になる。
すると、じっと見つめるティンプラの視線に気付いたのか、はこちらの方を向く。
「ティンプラどうしたの?寒いならもう中に入る?」
「寒そうなのはキミです。体温が急激に下がっています」
データベースを検索し、こういった時には手を取り温めてあげるべきだとの回答がはじき出される。でもそれは不可能だ。その事実がどうしようもなく歯がゆくて、ティンプラの瞳は少しだけ霧のかかったような色になる。
「私は平気。それよりティンプラは?」
「ボクはこの程度の冷気には耐えられるよう設計されていますので」
「そういうことじゃないの。ほら、手だってこんなに冷たい」
「っ!」
に触れられたところから、彼女の熱を奪っていくのがわかる。それが嫌でやんわりと手を外そうとすると、は手を握る力を強くした。
「駄目。貴方の手が温かくなるまでこうしているから」
「でもそれだとキミの手が」
「私は平気よ。ティンプラと手を繋ぐと私も温かくなるから」
「え…?」
それは逆ではないのだろうか。納得できていないティンプラに言い聞かせるように、は優しく言葉を紡ぐ。
「冬ってね、ぬくもりを感じられる季節なんですって。他の季節は温かいから分かりづらいけど、冬は寒いからそういった感覚が得られやすいの」
「………」
言われてみれば一理ある。暑い季節にぬくもりを感じるのは難しい。
「そう考えると冬も素敵じゃない?」
「………」
なるほど、わざわざこんな雪の日に外へ行こうと言い出した理由はこれか。冬という季節にマイナスのイメージを抱いていたことを、はわかっていたらしい。
「ティンプラと一緒だと、心が嬉しくて温かくなるの。貴方は違う?」
そう言っては服の上から胸のプリズムに手を添えた。彼女に触れられた部分がほんのり熱を帯び、それは次第に全身へ伝播する。
「確かに…温かくなりました」
さっきまで冷え切っていた身体が温かい。これが、彼女を想う心が生み出す熱なのだろうか。
、キミのお陰で冬が好きになれそうです」
「そう?なら良かった」
笑顔で応えるに釣られ、ティンプラの表情も和らいでいく。
「でもこのままここにいては本当に風邪をひいてしまいます。さぁ、中へ入りましょう」
心に従うままに手を差し出せば、は自然な動作で自分の手を添える。柔らかく繋がれた二人の手は、先ほどよりも温かかくなった気がした。