紅色伝播



「あらそのルージュ、新作のやつでしょ」
「さすがスペルヴィア王子…!実はこの前買ったんです」
今日が付けてきた口紅は、先日発売されたばかりの新作カラーだった。発色も良く使いやすいと評判のメーカーだったので手に入れるのは大変だったが、こうやって気づいてもらえたならその苦労も報われたと言えるだろう。
「アンタ、その色が好きなの?」
「好みよりは似合うかどうかで選びました。以前教えて頂いたカラー診断に沿ってみたんです」
「ふーん…」
スペルヴィアの反応がイマイチなところを見ると、これは選択を間違ったパターンなのだろうか。
「あの、もしかして…」
似合ってませんか?そう紡ごうとしたの唇は、スペルヴィアのそれによって塞がれてしまった。
「っ!」
もともと慣れてはいないキス。しかも不意打ち。は目を白黒させるが、そんな彼女の様子などお構いなしにスペルヴィアは口付けを続ける。その後ゆっくりと離された唇には、の付けていたルージュの色が移っていた。だがそれは想定内だったようで、スペルヴィアはそれを慣れた手つきで己の唇に馴染ませる。
「………」
その様子が余りにも似合っていて、言葉を失う
「この色、ワタシの方が似合うと思わない?」
思っていた通りの事を言われ、はこくこくと頷く。
「これもアンタに似合ってないわけじゃないけど……好みじゃないなら別の色にすべきよ。ほら、他にもカラーはあったでしょ。あの中に確かアンタの趣味に合って似合う色もあったはずだから、今から買いに行くわよ」
「いっ、今からですか?!」
スペルヴィアはの手を取って歩き出す。繋いだ手から熱が一気に伝わり、は真っ赤になった。
「善は急げって言うじゃない。ついでに他のメイク道具も見繕ってあげる……チークは要らないみたいだけどね」
「っ!」
ルージュの色と変わらないくらいに染まったの頬を見て、スペルヴィアは楽しそうに微笑んだ。