灯った星の行方
今日は流星群が見られるらしい。そんな噂を城内で聞いたが、自分には関係ない……はずだった。
「ハークー!出てきてー!!」
ドンドンと勢いよく叩かれる窓。ここは城の中でもだいぶ上の階のはずで、ここから人間が呼びかけるなんて到底無理な話だーーそう、普通の人間なら。だが残念ながら声の主は一般的な人間とは違いを持っており、だから今こうやって窓の外から騒ぎ立てる事が出来るのだ。
「………五月蠅い」
暫しの葛藤の後、渋々窓を開ければは案の定不機嫌な顔でこちらを睨んでくる。
「居るならもっと早く出てきて!間に合わなくなっちゃうじゃない!」
「間に合わなくなる?」
「そう!流星群は今夜がピークなの!だから早く来て!」
「………」
行きたくない、と断わったところでは自分の首根っこを掴んで連れまわすのだろう。一度決めたら曲げない彼女の事だ、どうせ拒否権はない。そう結論付けたハクは無言のままマフラーを巻いた。少し外に出るくらいならこれで十分だろう。
「そんな軽装じゃダメ!もっと着込んで!」
「どこまで行くつもりなんだ」
「あの丘の上。風が強いと困るでしょ、だからちゃんと暖かい格好するのよ」
言われてみればは随分と着込んでいるように見える。完全防備といった出で立ちだ。
「……わかった」
ハクはため息をつくと、クローゼットから外套を取り出した。これなら文句は言われまい。
それから準備を整えて、外出する旨も伝えて、丘の上についたのは夜もだいぶ更けた頃だった。星以外には光が無い丘はまさに絶好のスポット。普段はこんな時間に来ないから気づかなかった。
「あ!流れ星!」
早速見つけた流星を指差す。だが視線を移す頃にはもう星は流れ切った後だった。
「あぁ残念まだお願いしてないのに。でもチャンスはいっぱいあるから、この次は頑張ってお願いしないと!」
楽しそうな声と共に漏れる息は白い。
空を翔ける星を探しているの瞳はキラキラと輝いて、まるで星のようだと思う。そんな感想を抱きながら同じように空を眺めれば、眼前には同じように輝く満天の星。この夜のうちに、一体どれほどの星が燃え尽きるのだろう。
「あっまたあった!向こうにも!みてみて!」
あちこちに視線を向けながら笑うを見ていると、何となくだが心がふわりと和らいだ。
「……あぁ、見てる」
もしかすると、これが楽しいという事なのだろうか。そう考えると、胸の中に暖かな光が灯った気がした。それはまるで生まれたての星のように、じんわりと温かみを増していく。
「じゃあ次はどっちが先に見つけられるか競争よ!今日はお願いが無くなるまでいっぱいいっぱい見つけるの!」
……毎回こうだと疲れる気もするが……たまにならこうやって振り回されるのも悪くはない、か。
また一つ見つけた暖かい気持ちを抱きつつ、ハクは空から降る星の行方を見守った。