今はあくまでつまみ食い
※撮影、有給等のメタ発現と若干の下ネタ?あり
※2010年の骸の誕生日セットの描きおろしイラストからの派生
今日は骸の誕生日セットに組み込むブロマイドの撮影日だ。
元々こういったものが嫌いだし、まず写真に映ることすら拒否することが多い骸が今回は割とすんなり受け入れたと知った時は正直信じられなかったが…今俺の目の前には、幻覚じゃなくてちゃんと六道骸本人が居る。それは紛れもない事実で、でも実際それを目の当たりにしても未だに信じられないのは相手があの骸だからだろう。そんなこんなで、俺は眼前の光景がにわかに受け入れがたくてしばしの間固まったままだった。だが骸はそんな視線はどこ吹く風で、撮影用に用意されたケーキをつまみ食いしている。それ撮影終わるまで食べちゃいけないんだぞ、なんて突っ込みを入れたいがあいにく今の俺はそこまで頭が回らない。
「………」
しばらくすると、その様子を不審に思ったのか骸が訝しげな表情をこちらに向ける。
「……沢田綱吉、さっきからなんですか」
「え、いや…本当に来たんだなって」
「来いと言われてしまいましたので。僕だって本当ならこんなところに来る気はないです」
思わず心の声をそのまま出してしまったが、骸は特に気にする様子もなく答えた。
「まぁそれなりの報酬は頂く予定なので相応の仕事はしてあげますよ」
その報酬の事を思い出したのか、骸は心なしか楽しそうな顔をする。そんな顔をする程の報酬とはどれほどのものなんだろうか。知りたい。けどそれ以上に知りたくない気もする。この話題を追求するのもなんだか怖い気がして、俺は話を変えることにした。
「そ、そういえばは?」
確か一緒に来る予定だったはずなのだが、まだ用意が終わってないのだろうか。
「ですか?それならもう先ほど食べました」
「へー……え?」
食べた?誰を?
「え、食べたって……え?を?」
「はい。待ってる時間が暇でしたので」
何を言ってるんだこいつは。食べたってどういうことだ。こいつそんな特殊性癖あったのか。いやそれより食べたってもしそれが事実だとしたら大変じゃないか暇だから食べるとかこいつの頭どうなってるんだそれよりどうしよう俺はどうすればいいんだ!まさかの告白に俺の頭は真っ白になる。
「………」
「?」
この世の終わりのような顔をする俺に、骸は先程より一層怪訝な表情を向ける。まるで何言ってんだこいつ、とでも言うように。むしろ俺がそう言ってやりたい。なんだ、もしかして俺がおかしいのか?
「!!」
ふと、俺の頭の中に別の可能性が浮上する。食べた、とはもしかして隠語的意味なのではないだろうか。
が居ない。骸が食べた。待ち時間があって暇だから。つまり……この撮影が始まるまでの待ち時間の間に、骸はを抱いたのだ。のことだから今頃疲れて寝ているから不在なのだろう。そして、骸が心なしか上機嫌だったのはその行為による充足感のため。そしてそれ相応の報酬というのは、を抱く許可をもらったとかなんとか。仮にも恋人同士なのだから許可もなにもないとは思うが、立場上そういった行為に関してはリボーンに制限されてるところもあるからもしかしたら直々に許可をもらったのではないだろうか。だとしたら全てに説明がつく。
「!?!!?!」
色々と邪推してしまい、自分の顔が真っ赤になるのがわかる。骸はもうこれ以上ないくらい不審そうな顔をしているが、こっちはそれどころじゃない。なんだこいつ、恥ずかしげもなくそんなこと言うなんてどうかしてる。
「沢田綱吉?もしかして具合でも悪いんですか?」
「べ、別にそんなんじゃない!」
「それならいいですけど…おや、アルコバレーノ」
骸が視線を向けた先には、リボーンの姿があった。
「思ったより早く来たんだな」
「えぇ、早く終わらせたいので」
「いい心がけじゃねーか。それより骸、はどこにした?」
「!」
「それなら先に食べました」
「!!」
先ほどと同じく平然と答える骸に、こちらがドキドキしてしまう。いくらなんでも包み隠さず話しすぎだろうこいつ。
「撮影終わってからって言ってただろ」
「!?」
対するリボーンは骸の発言を特に気にするでもなく会話を続ける。やはりリボーンは諸々知っていたのだ。
「大丈夫ですよ。どうせ撮影する時には見えないんですから」
「約束と違うだろ」
「少しくらい大目に見てください」
「ちっ、仕方ねーな。ほら、さっさと撮影始めるぞ。おいツナ、お前も配置につけ」
「えっ?!う、うん……」
促されるまま撮影の準備に入るが、俺の気持ちは未だにもやもやとしたままだ。なんなんだこいつら。照れてる俺のほうがおかしいのか。
「遅くなってごめん!」
「…?」
声のした方向に振り返る。そこにはの姿があった。疲れ果てて寝てるんじゃなかったのか。
「なんでここに…!」
「ケーキ用の蝋燭が間に合わないから探してたんだ。これ一個だけ用意できたからこれで何とかして」
「う、うん…?」
「あー!なんでケーキに私が居ないの!!」
は骸に駆け寄ると、ケーキを指差し不満げに抗議する。
「ここにいたでしょ私のマジパン人形!」
「それなら待ち時間が暇だったので食べました」
「は?なんで!?」
「貴女が早く蝋燭を見つけてこないから悪いんですよ」
「用意するの忘れたの私じゃない!!」
言い争いを始めた骸とを横目に、俺はようやく全てを理解した。骸が食べたと言ったのは、ケーキに飾りつけてあったマジパン人形のだったのだ。余計な妄想をしていた自分が恥ずかしい。そんな自責の念にとらわれる俺の内心を知ってか知らずか、骸との喧嘩はヒートアップしていく。
「あぁもう分かりましたよ!これが終わったら貴女自身も食べてあげますからおとなしくしてなさい!」
「はぁ?!ふざけんなそんなこと絶対させないから!!」
「俺が許可するぞ」
「なんで!!リボーン関係ないでしょ!!」
「元々そういう約束で骸はこの撮影に臨んでるからな。これが終わったら共々有給扱いだ」
「え、ちょっと待ってそれ本当に聞いてない」
「体力がない貴女を慮っての事ですよ」
「それ配慮になってないからね?」
もはや痴話喧嘩になりつつある話に先ほどまで想像していた単語が飛び出して、しかもそれが当たらずといえども遠からずな話に飛躍して俺は頭を抱えたくなった。なんだ、結局はそうなるんじゃないか。
「………」
「ん?どうしたツナ」
「……なんでもない」
あぁ、早くこの撮影終わればいいのに。