夜更かしサンタさん



クリスマスイブからクリスマスにかけて、みんなが寝静まる時間。
夜の闇は一層深まり、頼れる光は月明かりのみ。そんな世界を歩く影が一つ。
「………?」
黒曜ヘルシーランドの居住スペース部分にある、犬の部屋の前で立ち止まったその影は扉を開けようとしてはたと動きを止めた。
こんな時間なのに何やら動く気配が扉の向こうにある。普段だったら犬かと思うだろうが、こんな時間に起きていられないのは把握済みだしそれ以前に動きがやたらと静かだ。
だが不法侵入者を自分が気づかない筈がない。だとしたら答えは自ずと見えてくる。
「……、」
「っ?!?!!!」
扉を開けて気配の正体ーーに小声で呼びかける。
こちらの侵入を予測していなかったようで、は飛び上がらんばかりに驚いた。だがなんとか声は殺せたようで、犬を起こさずに済んだようだ。
「びっくりした骸かぁ……は?」
「………」
「………」
こちらを振り向いたの動作が止まる。
一方骸も、の姿を見て固まったまま動けなくなっていた。
しばしの沈黙が二人の間に流れる。
「もー食べられないびょん…」
「「っ!!」」
丁度良いタイミングで犬が寝言を発し、静寂が打ち破られる。
現実に戻った二人は目配せすると、犬の枕元に各々目的のものを置いて部屋を出た。



普段居間のような役割として活用しているホールに着くと、骸とはようやく緊張を解く。
「骸もサンタやってるなら初めから教えてくれれば良いのに」
そう言っては変装用?に付けていたメガネを外す。
の前には典型的なサンタクロースの格好をした骸の姿。ご丁寧に白い口髭までつけており、彼の本気度がうかがえる。
「それを言うなら貴女もですよ。まさか同じことを考えていたなんてね……しかしその格好は…もしかしてべファーナですか?」
「さすが骸。せっかくだからサンタじゃない格好しようと思って。ほら、ちゃんと飴と炭もあるよ」
炭の場合は炭の形したお菓子だけどね、と補足する
骸とは違い魔女の姿をしたは、ともするとハロウィンの仮装にも見える。だが骸が指摘した通り、彼女はイタリアのクリスマスであるナターレに登場する魔女、ベファーナをイメージしてその衣装を採用したようだ。
「クフフ、らしいですね」
「褒め言葉として受け取っておくよ。そういえば骸はもうプレゼント配り終わったの?」
「いやまだです。最初に犬のところに行こうとしたら貴女と鉢合わせしましたので」
「じゃあ丁度良いや。私もまだ犬以外に配ってないから一緒に行こ」
「そうですね。起こさずに配るには一度に終わらせた方がいいですし」
こうして二人は千種やクローム、フランの部屋に侵入して当初の目的を果たした。
そうしてまたホールに戻ってくると、隣り合ってソファに座る。
「さてと…あとはこれ」
「?」
骸に向き合いは小さな箱と飴を手渡す。
「骸へのプレゼントはこれ。今年は良い子にしてたからベファーナからは飴を、こっちの箱は私からのプレゼント」
「おや、まさか飴をもらえるとは」
「炭も残ってるから変えてあげようか」
「遠慮します」
次いで、骸も持っていた袋からラッピングされた袋を取り出す。
「僕からのプレゼントはこれです」
「やった!さすが骸サンタ!ありがとうー!」
そう言ってが抱きつけば、骸は満足げに微笑んだ。
「喜んで頂けて何よりですよ」
「好きな相手からのプレゼントだったら基本的になんでも嬉しいでしょ。中身は勿体ないから明日までの楽しみにとっておくね」
「では僕もこれは明日改めて開封する事にします」
渡されたプレゼントは、世界で一番の宝物に見える。だって相手が時間を掛けて自分に向けて選んでくれたものなのだ。
「そうだ、せっかくだし今からお茶にしない?」
「おや、普段はこんな時間に食べると太ると言ってるのに良いんですか?」
「今日は特別だからいいの。ほら、この前買った美味しいクッキーあるから一緒に食べよ。あと紅茶も」
「わかりました。では僕はお湯を沸かしてきますね」
寝ているみんなに気づかれないようにこっそりと準備する二人。
こんな夜更けに、しかもクリスマスの特別な夜に夜更かしなんてなんだかちょっとだけ悪いことをしている気分になるけれど。
でもそれ以上に楽しくて、なんだか胸の中が温かい気分になるのはきっと隣に大好きな人が居るから。プレゼントももちろん嬉しいけれど…この一時が、一番のクリスマスプレゼントなのだ。
サンタとベファーナのお茶会は、穏やかにふける夜と共に過ぎていった。