流星の祝福



「流星群見るから今すぐ来て!」
その一言と共に急遽連れて来られたのは、黒曜ヘルシーランドの一角。丁度壁が崩れており、外は見えるが風は入ってこない絶好の立地。床には二脚椅子が並んでおり、小さな台の上にはご丁寧に軽食がセットしてある。極めつけは鼻腔をくすぐるホットチョコレートの甘い香り。完璧なセッティングに目眩がした。
「全く…用意してあるなら最初からそういえばいいでしょう」
「だってそれじゃ面白くないじゃん。びっくりした?」
「えぇ、とても」
毎度おなじみの思いつきによる行動だと思ったが、今回はしっかりと計画されたものだったようだ。
「流星群来るって知ったのは今朝なんだけどね。それから急いで準備したんだよ!」
毒気なく微笑み言われれば、拒否など出来るはずがなく。
そのまま骸はと共に流星群を眺める事になった。
「ねぇ骸。骸は流れ星に何をお願いする?」
「相変わらずロマンチストですね。星に祈って叶うなら今頃世界中の人間が挙って天体観測してますよ」
「あのさぁそういうムード壊すこと聞いてるんじゃないんだけど。ってか星に願うのって元々そういう意味合いじゃないし」
「おや、ではどういう意味なんです?」
は遠くの星を眺めながら、ゆっくりと口を開く。
「流れ星って一瞬の出来事でしょ?その一瞬にお願いできる夢は、いつでも心に想ってるもの。だって咄嗟に思いつかないじゃない。そういう「いつも心に在る夢」は、叶う確率も高いんだよ。だから星に願う夢は叶うって言われるの。わかった?」
「いつも心に在る夢、ですか……」
星明かりに照らされたの横顔は穏やかだ。
「骸はある?」
「もちろん。世界大戦です」
「………」
先ほどまでの優しい表情とは打って変わり、なんとも言えない顔をする
これは少々言葉選びが良くなかったかもしれない。
「まだそんなこと言ってるの」
「僕の悲願ですから。それよりの願いはなんですか?」
「私?私はもう叶えたよ」
「ほう、それは興味深い」
「一緒にこうやって居るのが夢なの。だからもう叶ってる」
「………」
まさかこんなにもあっさり言われるとは。素直な切り替えしは滅多にされない分新鮮で、思わず苦笑が漏れる。
「クフフ…貴女は本当に、見ていて飽きないですね」
「叶えられる願いは自分で叶えるんだよ」
「そうですね。じゃあ僕も願いを叶える事にしましょう」
「世界大戦を?」
「違いますよ」
流れるように自然に、唇を重ねる。
柔らかさと共に感じるのは、甘いチョコレートの香り。
「僕も同じですよ。貴女と一緒に居るのが、一番の願いです」
願わくば、降り注ぐ星が祝福でありますように。
小さな祈りと共に、空から光が零れた。