スイートメルトチョコレート
「あ、」
またやった。
元々お菓子作りは向いていないと十二分に理解してるから基本的に触れない領域なのだけれど、今日は2月14日。俗に言うバレンタインデー。そんな日は手作りチョコの1つや2つも作りたくなるのが乙女の心情というもので、簡単だとネットで見た電子レンジで作るブラウニーを自作することにしたのだ。実際とても簡単だったし本体はそれなりに上手くできたと思う。だが問題は仕上げの飾り付けで、今目の前にあるのはそれ用に用意したホワイトチョコで、それはもはや原型を留めない程度に分離している。つまり失敗だ。1回目は電子レンジでやったから、わざわざ新しいチョコを買ってきて今度は失敗しないよう湯煎で溶かしたのに。それでも失敗した。だから言ったんだお菓子作りは向いてないって。
「もう飾りは要らなくてもいっか…」
そのまま渡してしまえばどうせどんな完成を目指していたかなんてわからないのだ。黙って渡してしまえばいい。だがそんな時に限って
「おや、良い香りがしますね」
その相手が来たりする。運命の神様はなかなかに非情だ。
「骸まだこっち来…」
「なんですかそれチョコレート…にしては酷い出来ですね」
静止する間もなく骸は背後から腰に手を回し、覗き込むように鍋を眺める。視線の先にはバッチリ失敗作が映っているようだ。
「そうなの失敗したのだから見られたくなかったの」
「失敗？そちらにあるブラウニーは美味しそうに見えますがそれじゃダメなんですか？」
「この酷い出来って言われたやつで仕上げするつもりだったの！」
「なるほど」
「あーもうやる気無くしたもうこれで完成でいいよめんどくさい」
骸の腕を振りほどくと、は無造作にブラウニーを渡す。ほんとはもっとちゃんと作って渡す気だったのに、全部が中途半端になってしまった。とんだ誤算である。
「味の批評はいいよとりあえずそれあげたからねこれでバレンタイン終了」
「そんな冷たい事言わないでください。これだって十分美味しいですし、貴女の気持ちが嬉しいです」
骸は一欠片それを口に含んでにっこりと笑う。
「………」
確かにその言葉は聞きたかった。だがそうじゃないのだ。まだ納得出来ていないの不満げな表情を受け、じゃあ、と骸は続ける。
「今度は一緒に作りましょう。今時のバレンタインは男女関係ないですし、僕も貴女に手作りのものを渡したいので」
「………」
「ね？」
「……わかった」
「ありがとうございます」
一緒に作るなら、今度は苦手なものでも上手くいくかもしれない。むしろ作るのが楽しくなるかも。
さぁ、さっきまでの不満は全部、チョコレートと共に溶かしてしまおうか。