猫は気まぐれ
『オッドアイの猫は聴覚障害を発症してる事が多い』のだという。
それはあくまで猫の話で、白猫に発症し易くて青目の方に障害が出やすくて…なんて、先ほど偶然やっていた動物番組で豆知識を得たところで僕は人間。オッドアイだからと言ってそれが該当するわけではない。だが目の前にいる人物はそうとは思っていないようで、好奇心に満ちた瞳でこちらを見つめていた。
「………僕は白猫ではありません」
「でも白フクロウに憑依するし」
「まず人間です」
「でもでもオッドアイだし万が一の可能性は」
「ないですよ」
「試すだけなら」
「時間の無駄です」
正直呆れて返事をするのも億劫だ。だがはお構いなしに左隣に座ると、小さい声で言葉を紡ぎ始めた。
「むくろ~」
「何ですかちゃんと聞こえてますよ」
「じゃあこれくらいは?」
「問題なく聞こえます」
次第に声の音量を落としていくが、当然のことながら僕の耳には障害などないので問題なく聞こえる。
「やっぱり駄目か。じゃあ次反対」
「あいにく右耳も正常なので無意味ですよ」
僕の抗議は届かないようで、ともすると彼女の聴覚に問題があるのではないかと思ってしまう。
「聞こえますか~」
「聞こえるって言ってるでしょう」
先ほどと同様、ぽそぽそとか細い声で囁く。ここまでくると返事する気力もなくなってくる。
「これは?」
「………」
「骸?」
「………」
「聞こえないの?」
「………」
「……本当に聞こえない?」
「………」
瞼を閉じ、無反応を貫く。だってどうせ本気で聞こえないなんて思ってないのだ。ならもう飽きるまで放っておこう。
「………ほんとに?」
「………」
まるで念を押すような言い方。それに違和感を感じたのも束の間、
「……好き」
聞こえるか聞こえないかくらいの声量で紡がれた言葉。その意味を僕の頭が理解するよりも早く、は素早く離れ部屋の外へと逃げてしまった。いつもはのんびりしているくせにこういう時ばかり行動が早いのだから困ったものだ。
「やられましたね……」
滅多に口にしない愛の告白をあえてここでしてくるとは、不意打ちにも程がある。もしかしてはそこまで考えてあの茶番を繰り広げていたのだろうか。
「……まさか、ね」
こうやって気紛れで僕の心を振り回すのだ。オッドアイの白フクロウよりも、彼女の方がよっぽど猫らしい。