「手作りチョコください」
「え、無理」
唐突に告げられた言葉にも関わらず、は間髪入れずに切り返す。
不意打ちを狙った骸は逆を突かれた形となり、若干たじろぎながら言葉を続けた。
「ど、どうして無理なんですか」
「私、カカオからチョコ作るなんて出来ない」
至極真面目な顔の。そんな様子に骸は脱力した。
「子供みたいな屁理屈ですねぇ……では市販のチョコに手を加え、また食べられる状態になったものを希望します」
「うーん……はい」
今度は暫し思案し……近くにあったチョコを手に取ると、それを2つ机の上に置く。
「板チョコを重ねるって…手抜きにも程がある!!」
「『市販のチョコに手を加え』てるよ?」
「天邪鬼な事言わないでください……」
ああ言えばこう言う、まさにその言葉が体現された事態に頭が痛くなる。仮にも恋人の頼みだというのにどうしてはここまで意固地になるのか。
骸は折れそうになる心をなんとか保ち、更なる要求を提案した。
「では、市販のチョコを溶かした上で加工し、冷やすなどして工夫をこらし、バレンタインと言う日に相応しく作られた品が欲しいです!これでどうですか!」
「自分で作れば?」
「貴女が作ったものがいいんです…!」
切実な願いを込めてそう述べてもはどこ吹く風。全く興味がない体で返された言葉は、あまりに素っ気ないもので。
「骸の方が加工するの上手いと思うよ?」
「が作る事に意味があります」
「その心は」
「愛する人が自分の為に時間を割いて何かをしてくれる幸せを、目に見える形で欲しい」
「奇遇だね、私も欲しい」
ようやくまともな返事が貰えたと思えたら、次は私もときたものだ。だがここまできたらもう驚かない。
「逆チョコが欲しい、という事でしょうか?」
「人にやらせる前に、まず自分からする努力をしないと」
「何ですかその言い方」
「バレンタインが『女性が男性にチョコをあげる日』になっているのは日本及びアジアの数カ国だけです。仮にもイタリア人男性なら、自ら進んでプレゼントを渡すような気概を見せて欲しいな、と」
……正直なところ、ここまで言われて貰うようなものでもないだろう。しかし売り言葉に買い言葉。ここまで言われて引き下がる骸では無かった。
「………わかりました、いいでしょう。待っててください。が喜ぶ最高のプレゼントを用意してあげますよ!」
堂々と宣言して骸は走り去る。
そんな姿を眺めながら、は自己嫌悪に陥った。
「また素直に渡せなかった……!!!」
口ばかり達者なツンデレは、ろくな事がない。
……ねぇ骸、もういっそのことさ。