月を射抜いて
スカイアローブリッジ。その名の如く、空を射抜くようにそびえる橋。
「暗くなっちゃったね」
「うん」
ヤグルマの森での特訓を終えたトウヤは、と共にスカイアローブリッジを通ってヒウンシティへと向かっていた。通常ならそらをとぶでひとっ飛びだが、特訓で疲れたポケモン達の負担を軽くするために今日は徒歩だ。
「あ、月」
が呟く。空はもうすっかり暗くなり、満月が輝いていた。
「今日の月…やけに大きい気がする」
不思議そうに空を見上げる。言われてみれば確かに大きい。満ちた月は橋にかかることで、余計に大きく感じられた。
「そういえば、今日はスーパームーンだってテレビで言ってたよ」
「そっか」
寒空の下、ゆっくり歩を進める。
「月、綺麗だね」
「うん」
「こんなに綺麗な月、久しぶりに見た」
「って、あんまり夜出歩かないんだっけ?」
「そういうわけじゃないよ……多分、トウヤと一緒に見てるからだと思う」
「っ!」
まさに不意打ち。は視線を月に向けたままで、その言葉がどんな表情で呟かれたのかはわからない。
一方、トウヤは早くなる鼓動を必死に抑えようとしていた。
それって、もしかして。
そんな淡い期待を抱いてしまう。勘違いかもしれない。でも、違うかもしれない。さっきの言葉の意味が、の気持ちだとしたら。普段は隠れている感情を、一瞬だけでも露わにしてくれたものだとしたら。
好き。だとと取ってもいいのだろうか。
は普段は直球なくせに、時折やけに回りくどい言い方をする。
本人曰く、自分の気持ちを上手く表現出来ないのだそうだ。 だからこそ、さっき言葉はやけに響いた。
「…ねぇ、」
「?」
鎮まれ心臓。暴れる心を必死に抑え、一つ一つ確かめるように言葉を紡ぐ。
「あのさ、さっきの月の話」
「?」
「それってさ、もしかしてーー」
その瞬間、橋の下を通った船の汽笛に言葉が掻き消された。
「………」
「すごい音だったね…」
「うん……」
ようやく言おうとした矢先に邪魔が入ってしまった。せっかく決心がついたのにと思う反面、安心もしてしまう。
「ごめん、さっきの言葉聞き取れなかったからもう一回言ってもらえる?」
「……え?あ、あぁ、あれね!今日の月は本当に綺麗だから、と見れて僕も嬉しいよって言いたかったんだ!」
は怪訝そうな顔をしたが、それ以上追求はしてこなかった。……ボクの意気地なし。なんで言えないんだろう。
あぁ。
スカイアローブリッジが月を貫きそびえるように、僕も彼女の心を射抜けたらいいのに。