#絶対零度のその淵で



寒い寒い世界。
真っ白に染まった闇はどこまでも深い。
そんな深淵に佇んだ一匹の竜は、ただひたすらに待ち続けるのだろう。

確固たる約束なんて無い。
あるのはたった一つの思い出のみ。

まるで雪を溶かす春の陽射しのように温かい、優しい眼差し。
まだ幼いさの残るあどけないあの笑顔が、心の寄りどころだった。

心無い人間に支配され、全てに絶望していたあの時。
最後の最後、あと一歩で壊れていたであろう冷えたこの身を救ってくれた。
それがどんなに嬉しかったか。

己の虚ろさから滲む冷気を纏い、凍えた世界に取り残された竜。
真実と理想、そんな空論を求めて争った成れの果て。

だけど、それでも好きだと言ってくれたから。
誰にも必要とされない、忘れ去られた遺骸のような姿を憐れむ事ではなく、愛する事で癒やしてくれたから。
もう一度、逢いたいから――
空虚な心に灯った光を標に、真理を求める竜は果てのない未来を見据えるのだ。