その彩りは、胸に燻る赤に似て



視界を掠めたのは鮮烈な赤。その赤を辿っていくと、それはの指先を彩っていた。
「ん?どうしたの?」
視線に気づいたは、作業をしながらビートに声を掛ける。
「いや、あなたがその色のマニキュアを使うのは珍しいと思って」
「あぁこれね。今度の舞台の役作りの一環だよ。赤色が好きな情熱的な人なの」
「なるほど」
こう言ったことは別段珍しくないし、今までだって彼女は役作りの為に趣味とは違うモチーフを生活に取り入れてきた。 だがどうしても心に引っ掛かりを覚えてしまうのは何故だろう。
今までずっと片想いしてきて、でも相手は自分を弟扱いしかしてくれなくて。 それをなんとか打開しゆっくり距離を詰め、やっと隣に並ぶ事が出来た。 しかし女優である彼女は自分と違う世界を生きているのも事実で、どうあがいても届かない場所に立っている時がある。 それは仕方のない事だと割り切ってはいるけれど……せっかく一緒に過ごせる時間にまで侵食されるのは少々不満になると言うか。
もしかして、嫉妬だろうか。
(……馬鹿馬鹿しい)
そんな風に思うこと自体が子供っぽい考えだ。きっとこんな事伝えたら、やっぱり子供だと笑われるに決まってる。
「何?そんなに気になる?」
考えているうちにまた視線が指先にいっていたらしく、は作業の手を止めてこちらに向き合う。
「もしかして似合ってない?」
「………そうですね、あなたに情熱的な赤は似合いません。もっと別の色にするべきです」
極力感情は抑えめに、さも客観的な意見を述べる。
もしその指先を別の彩りで満たすなら、今度はぼくの色に染めて欲しい。そんな、わがままな希望を言外に込めながら。