結果的には作戦成功



「ねぇエルク、吊り橋効果って知ってる?」
「…知っていますがこのような方法でないのは確かです」
目の前にあるのは剣の切っ先。いくら騎士として命のやり取りをする機会のある立場でも、急に刃物を向けられるとさすがに身構える。
「ドキドキした?」
「はい、とても……」
「なら作戦成功ね」
和かに微笑む彼女の手には、その愛らしい姿に似つかわしくない真剣が握られている。
「こうやって驚かせたら、その感情を私への気持ちと勘違いしてくれるんじゃないかと思って」
「………はぁ」
あぁ本当に彼女の行動は突拍子がない。先ほどの行為は勿論だけど、やる事なす事全てに毎回驚かされるのだ。正直何もしなくたってドキドキはしている。だが、それを本人に伝えるわけにはいかないから。
「………」
気を抜いている彼女の手に自らの手を添え、流れるように剣を奪う。
「危ない事は駄目ですよ、?この剣は僕が返しておきます」
耳元で滅多に呼ばない愛称を囁き、そのまま逃げるように立ち去る。
本当だったら触れるだけでも大罪人として打ち首になるところだが、まぁさすがに今回に関してはお咎めなしだろう……と思いたい。
今ドキドキしているのは叱責への恐怖なのか、大それた事をした小心者の自分の容量不足によるものか、それとも。
彼女に触れた手も、頬も、耳も熱くなっている事には気づかないフリをして、エルクは早足で武器庫へと向かった。