次の機会はどうか隣で
が結婚する。
なんて、それこそ根も葉もない噂を聞いたのはついさっきのこと。これでも情報通を自称している身だし、入ってきた話の全てを鵜呑みにするなんて馬鹿げていると知っているのに。僕の足は意思とは関係なく、の元へと向かっていた。
間違っていて欲しい、そんな話は有り得ないと笑って欲しい。そんな気持ちでいっぱいになる。僕はどうかしてる。そういう自覚はちゃんとある。でも足は止まらない。
そうしてすぐにのいる部屋の前に着くと、途端に冷静になった頭…と言っても混乱した中での冷静さなのでまともな思考は全く出来てないのだが、そんな使い物にならない代物が余計な警告を発する。このまま扉を開けて、嫌な予想が当たっていたらどうするのだと。
勢いは躊躇いに変わり、僕は扉の前で石のように固まってしまう。あぁどうすれば。そんな事を呆然と考えていると、扉は内側から開かれた。
「っ?!エルクどうしてここに…!」
中から出てきたは目を丸くする。当然だ、自室の前で大の男が固まったまま立っていたら誰だって驚く。だがそれは僕だって同じだった。が着ていた服は、その噂を真実へと導くもの…ウエディングドレスそのものだったのだから。
「え?あぁもしかしてこれを見に来たの?素敵でしょう。ワイズバリーで一番のデザイナーの作品なの。ブライダルフェアなんですって」
「ぶらいだるふぇあ…?」
予想していなかった言葉を音の通りに返す様子は、とても間抜けに写っただろう。その様を少し不思議そうに眺めたのち、納得したようにはくすりと微笑んだ。
「ふふ、エルクったら凄い顔。あのね、今度ファッションショーを開くんですって。今は丁度ジューンブライドだからウエディングドレスもショーに使うんだけど、私はそのモデルに選ばれて、だからこの服を着てるってわけ」
「そういう事だったのか…」
張り詰めていた緊張が解け、一気に脱力する。なんだ、心配して損した。だから言ったんだ。結婚だなんて根も葉もない噂だって。でも聞かなかったのは僕だし。つまり、それくらい冷静さを失っていたのだ。
「なぁに?もしかして私が結婚するとでも思ったの?」
「……」
「あら図星?」
返事のない僕の真意を読み取ったは、少し思案してからこう告げる。
「もし私が実際に結婚する事になったら……その時は、貴方用のタキシードも作ってもらわなくちゃね」
「っ!」
照れ臭そうに発せられた言葉に、こちらまで赤くなる。噂が本当になる日は、案外近い未来なのかもしれない。