まぁ、一目惚れです



「どうしてサンは私を殺さなかったの?」
真っ直ぐな瞳。真っ直ぐな疑問。
は時折このような問いを投げかける。昔の彼女からしたら、「廃棄」と言わなかっただけ成長したのだろう。の存在は、神の意志に近いところにある。だからイデアの使徒は迂闊に手が出せない。でも実際のところそんなものは言い訳でしかなくて。それは自身も無意識に理解しているのだろう。
初めて逢った時。共に過ごした穏やかな日常の中。大事な友の命を奪った後。離れ離れになって、再会してから。気が遠くなるくらい長い時間の途中。そして今。
この瞬間も、サンがその気になればの命は瞬き一つで消えてしまうのだろう。しかし幾度となく機会はあったにも関わらず、サンはに危害を加えるようなことはしてこなかった。
「さあ、どうしてでしょうね」
まるで他人事のように答えるサン。
運命を左右した、いくつもの決断の場面を脳裏に思い浮かべるけれど…結局、答えなど出ないのだ。だからその答えは、どこか自分とはかけ離れた場所にあるのだと思う。だがはサンの言葉に納得する事はなく、はぐらかさないでと言わんばかりにその眼光を鋭くする。
「………」
ああ、そうだ。この目だ。
初めてと逢い、その瞳に射抜かれた時。心を揺さぶられるような、強い感情が沸き起こったのを覚えている。……ならばきっと、この気持ちにはこう名前を付けるべきなのだろう。
「……きっと、貴女に一目惚れしてしまったからでしょうね」
いくつかの場面で、瞼を閉ざした彼女の姿を見た時にどうしようもなく焦がれたのはきっと--この眼差しが消えてしまうことが怖かったから。
この光を、失いたくなかったから。