いずれ花咲くその時までは



麗らかな日差しが差し込む昼下がり。
自室で読書をしていたサンの元に現れたのは、何かの苗を持っただった。
「おや、どうしたんですか?」
「これをお屋敷の庭に植えたいのだけれど、問題ない?」
律儀に許可を取りに来たに、サンは優しく微笑む。
「もちろんですよ。それよりその苗はどこから手に入れたのですか?」
「これ?さっき街まで買い物に行った時に、おまけだってお店の人がくれたの。多分花の苗だと思うけれど、なんの花かまでは聞いていないから不明」
「そうですか。綺麗な花だといいですね」
の動きに合わせて生き生きとした新芽はふわりと揺れる。まるで当ててごらんなさいと言っているようだ。
「きっと綺麗に咲くと思う。だってカルディアが手伝ってくれるから」
「彼女が…ですか?」
確かに花を植えるだけなら手袋をはめたままでも可能だし、手伝うというのはわかる。だがどうしてそれが綺麗に咲くことへ繋がるのだろう。
「カルディアに、土を耕してもらおうと思って」
「……なるほど、そういう事ですか」
その一言でサンは理解する。はカルディアの毒…触れたものを全て溶かし腐らせてしまう力を逆に利用しようと考えているのだ。土壌を腐食させる事で、植物の育成に必要な堆肥を作る。命を奪う行為を、与える作業へと昇華させようとしたのだろう。だがカルディアの毒は通常のそれとは違う。もし土に毒性が残れば、植えた花も共に枯れてしまうだろう。そんなサンの疑問を察したのか、はこう続ける。
「大丈夫。絶対に枯らせはしない」
「何か対策は考えてあるのですか?」
「だって草花は――命は、そんなに弱くないから。だから、大丈夫」
「………」
「カルディアが待ってるからもう行くね。もし良かったらサンも来て。せっかくだからみんなで植えたいの」
「……えぇ、後ほど伺いますね」
部屋を出て行くの背を見送りながら、サンはゆっくりと思考を巡らせる。
先ほどの言葉と、一瞬の瞳に見えた強い光。それは、彼女に命を与えたとするアフロディーテのそれに似ていた。アフロディーテは豊穣の女神。地に命を与え、植物を育む女神の言葉ならそれはきっと本当の事となるのだろう。実際神に会ったことはないが、何故だかそう感じたのはそれこそ神の意思と言えるのだろうか。だが思いつくものは全て、憶測の域を出ない。
「………いくら考えてもわからない…なら、考えるだけ無駄ですね」
それなら、今はまだ暴かないでおこう。だってその結果がどんな悲劇を生むのかわからないのだから。いずれ花咲くその時までは、どうか真実は蕾に包まれたままで。そんな祈りに近い思いを抱きつつ、サンは自室を後にした。