だってきっと、恋は盲目
ウキョウと同棲するようになって早一ヶ月。
それは毎日行っている、いつもの家事。お風呂のお湯を抜いて、霧吹き状になっている洗剤を全体に吹きかけて…そこで手を止めた。何やらいつもと洗剤が違う気がする。
「……なんだか、いい香り過ぎる…?」
吹き付けた洗剤?は全く泡立つことなく浴槽の壁面に付着し、普段とは明らかに違う香気を放っている。そういえば、そろそろ洗剤を使い切りそうだったから新しいのを詰替えなくちゃと思っていたところだった。そして偶然、昨日の風呂掃除はウキョウが担当していた。これはまさか。は掃除の手を止めて、在庫の置いてある棚を確認する。そこに置いてあるのは詰替用に用意してあったいつもの洗剤。
「………」
はため息を一つつくと、リビングに居るウキョウの元へと向った。
「ウキョウさん、お風呂の洗剤新しく詰め替えてくれましたか?」
「うん。丁度俺が使った時に使い切っちゃったから、棚に置いてあったやつを入れたよ」
「ちなみに詰め替えた時にパッケージは確認しましたか?」
「えーっと……そういえば忙しかったからあんまりよく見てなかった…かも……」
想像していた通りの展開には脱力する。あぁやっぱり。この人は良くも悪くも期待を裏切らない。
「残念ながら、ウキョウさんが詰め替えてくださったのは消臭スプレーです。洗剤ではありません」
「えっ?!!」
「お陰様で今お風呂場に凄く良い香りが充満してます」
「ご、ごめん俺ちゃんと見てなかったから!新しいの買ってくる!」
「新しいのは詰替えがあるから大丈夫ですよ」
「う…ごめん……」
しょんぼりと肩を落とすウキョウに思わず苦笑が漏れる。別に怒る気はなかったのに少々言いすぎただろうか。
「怒ってるわけじゃないから気にしないでください。ただ、もうちょっと注意して見て欲しかっただけです」
「わかった。これからはよく確認してから入れるね」
「はい、そうしてください」
同棲をする前からウキョウさんのおっちょこちょいなところは理解していたつもりだったが、それはまだまだ序の口だったらしい。だがまた新たな一面を知ることが出来たと思えば失敗も愛しいものに感じるのだから、自分はだいぶ絆されているのだろう。だってこんなに可愛いウキョウさんの姿は、自分ひとりしか見ることが出来ない。そう考えると、なんだって良くなってしまうのだから。