春待ちの昼下がり



暦の上ではもうとっくに春なのだけれど、まだ肌寒い日が続いている。 だけど今日は比較的暖かいから、換気をするのに窓を開けて、ついでに掃除もして、荷物整理も…なんてしていたら、うっかりアルバムを開いてしまい。 当初の目的から脱線したのは気づかないフリをして、一緒に撮影した写真を眺めるウキョウと。それはささやかだけど、とても贅沢な時間。
「これはどこの写真?」
「この前冥土の羊のみんなで信濃旅行に行った時のだよ」
「こんな綺麗な場所あったんだ。俺も行きたかったなー…」
「ウキョウは仕事が入っちゃったからね」
「だって百年に一度しか咲かない花が急に咲くんだよ?!ずっと狙ってた花だし写真家としては逃すわけにはいかないし…うーんでもやっぱり行きたかった……」
その時の葛藤を思い出してか、悩ましげな顔をするウキョウ。その姿には苦笑する。
「みんなも残念がってたけど、その話をしたら仕方ないって言ってくれたし。だから今度行く時はウキョウも一緒に行こう?」
「……うん、そうだね」
今度。
その言葉が自然に言えるようになるまでだいぶ時間がかかった。そしてそれを当たり前に信じられるようになったのは、つい最近のこと。
「次は絶対、大事な仕事が入ってても行くから!千年に一度しか咲かない花があっても行く!」
「それはプロとしてどうかと思う」
「えっ」
「…ふふっ」
顔を見合わせて、笑みが溢れる。こんな掛け合いを出来るようになったのは、今日まで積み重ねた時間があるからだろう。明日を、未来を待つ事が出来るようになったのは、目の前にいる大切な人が傍に居てくれたから。
「次は花が満開の季節に行きたいねって話したの。だから今度はウキョウも一緒に思い出を作ろうね」
「うん」
開けたままの窓から、春風が花の香りを運んでくる。だからほら、約束の時はもうすぐ。