ツンデレにゃんこ



※ヒロインに対応した猫も登場します


冥土の羊の事務所内は、ネコによって占拠されつつあった。
先日内閣総理大臣の飼い猫を探す任務を見事クリアした探偵社・冥土の羊は、その手腕を買われ今度はそのネコの面倒を見ることになったのだ。大臣が仕事で留守にする数日だけ、という約束ではあるが相手は自由気ままなネコ達、しかもそれが6匹。人間の努力など虚しく、この場はネコの独壇場となっている。そして今冥土の羊に居るのは留守番役の一人。
つまり、この場は天国だった。
「ニャー」
「にゃーあ?」
ネコの鳴き声に釣られて思わず猫語になる。誰かに見られたりしたら恥ずかしくて消えたくなる案件だが幸い今は一人なので、思いのままネコと戯れることが出来る。
に話しかけてきたネコ…ハートは、猫じゃらしを加えている。つまり遊んで欲しいという事だろう。猫じゃらしを受け取り先端の羽をパタパタと動かすと、ハートは狙いを定めて羽に飛びついた。するとダイヤも寄ってきて、今度は2匹で猫じゃらしを狙い始める。
「ほらほらこっちだよ~」
それに応えるように猫じゃらしを動かす速度を早める。その光景を眺めていたスペードが擦り寄ってきての膝の上に陣取ると、別のソファに座っていたジョーカーが構って欲しそうに鳴く。クローバーはお気に入りの場所なのか窓辺で本を眺めており、エキストラはの隣で丸まって寝息を立てる。
「はぁ…みんな可愛いし最高……」
最初は何故総理大臣がこんなにたくさんのネコを飼っているのか疑問だったが…こんなに可愛い仕草をするネコ達に囲まれた生活、うん、悪くない。ほっこりと幸せに浸っていると、それを打ち破るかのように扉が開いた。どうやらウキョウが戻って来たらしい。
「ただいま~!……って、ネコまみれだね
「あ、ウキョウさんおかえりなさい。今はそちらのウキョウさんなんですね」
「さっきコケた拍子に変わっちゃったみたいでさ。まぁこの後大した予定もないからオレもそのままにしてるみたいだよ」
「なるほど…」
「それより、随分ネコ達に懐かれたね。羨ましいな」
ウキョウがハートを撫でようとすると、ハートはそっぽを向いて行ってしまった。
「うぅ、露骨に嫌われている…」
「初日にコケて尻尾を踏んじゃったの根に持ってるんですかね?」
肩を落とすウキョウに苦笑する。ネコ達もウキョウのドジには振り回されたようで、各々距離を取りながら観察しているようだった。
「俺も少しは仲良くしたいのにな~。あ、ジョーカー俺の椅子に座ってる。ここがお気に入りなのかな?」
「………ニャー」
ジョーカーはウキョウを一瞥すると一鳴きし、尻尾をパタリと揺らす。
「その椅子オレがめちゃくちゃ悩んで買ったお気に入りの椅子なんだ。気に入って貰えて嬉しいな~!」
そう言いながらウキョウがジョーカーを撫でようと近寄ると、ジョーカーは椅子から飛び降りた。
「わわっ!いきなり危ないよジョーカー!」
「ウキョウさん危ない!!」
「えぇ?!」
ジョーカーを避けようとよろけたウキョウは戸棚にぶつかり、その衝撃で戸棚から分厚い本が落ちてくる。それは見事に連鎖しーーウキョウの頭に直撃した。
「っ!!!!」
「だ、大丈夫ですかウキョウさん…!!」
大きな音を立ててウキョウが倒れ込む。慌てて駆け寄ると、ウキョウは完全に意識を失っていた。どうやら脳震盪を起こしたらしい。こうなった場合無理に動かすのは得策ではないだろう。だがこのまま床に直に寝かせておくわけにもいかないし、かといって自分の力ではウキョウをソファに寝かせる事も難しい。
「………」
は逡巡した後、意を決してウキョウの頭を自らの膝の上に乗せた。これなら多少はマシだろう。
「大きな外傷はないみたいだし、少し待って意識が戻らなかった時は救急車を呼べばで大丈夫かな…」
時計に意識を向けつつウキョウの回復を待つ。すると数分後、ウキョウの瞼がゆっくりと動いた。次いでウキョウの視線との視線が重なる。
「良かった目が覚めて…!意識の混濁はありませんか?痛みは?」
「……は?!なんでお前がオレのこと膝枕なんてし…っ!痛ぇ!クソっ、俺の野郎受け身も取らずに倒れやがって…!」
ウキョウは慌てて飛び起きようとしたが、その瞬間身体中の痛みに気づき元の位置へと戻る。
「まだ動かないで安静にしててくださいウキョウさん……そういえば、いつものウキョウさんに戻ったんですね」
「あ?……あぁ、そうだな。こんなに痛ぇならまだ変わるべきじゃ無かったな。あいつの自業自得だ」
「それは仕方ないですよ。今回は全部ウキョウさんのせいって訳じゃないですし」
がそう言ってジョーカーの方へ視線を向けると、少しは責任を感じているのかジョーカーがこちらを見ていた。おいで、とが手招きすると、バツの悪そうな顔でこちらへ寄ってくる。
「ほら、ジョーカーだって反省してるみたいですし」
「……ニャー」
「……そのブスくれた顔でか?」
不満そうな顔のウキョウ。その顔がジョーカーそっくりで、思わずは笑みをこぼした。
「ふふ、ウキョウさんの顔ジョーカーにそっくりですよ」
「はぁ?似てるわけねーだろ」
「その嫌そうな顔がそっくりです」
「………」
ムッとしてそっぽを向くその仕草も良く似ている。だがこれ以上言うと本当に怒りそうなので、は内心思うだけに留めた。
「それよりお前、このままでいいのか?床に直に座ってたら脚痛めんだろ」
「私は大丈夫ですよ。それよりウキョウさんの方が心配です」
「オレはなんてことねーよ……ただ……」
「?」
ウキョウは視線を逸らしたままポツリと呟く。
「もしお前が大丈夫だったら……もう少しこのままだと有り難くも、ない」
「!」
は先ほどと同じような笑みを浮かべはい、と答える。
素直じゃないところまでネコそっくりだなんてなんだか可愛い。
「ウキョウさんが回復するまではこのままでいますね」
また新たなネコに懐かれたようなこそばゆい気持ちになりながら、はウキョウの癖のある前髪を撫でた。