閑話休題
冥土の羊の休憩室に集まったのは、サワ、ミネ、リカの女子3人。きたる8/23のプリンスDAYに向けた衣装について話し合いをしている3人は、とある問題に直面していた。
「それで、ウキョウさんの衣装の件なんですけど…」
申し訳なさそうに話を切り出したのはサワだ。
「すみません尾行失敗しました!!だってウキョウさんすぐ気づいたし威嚇とかしてくるし全然尾行出来ないんだもん!!」
わなわなと震えながら必至に訴えるサワ。その目には涙が浮かんでいる。
「えー!ウキョウさんってそーゆーの全然気付かないと思ってたのに!」
サワの言葉を受け、ミネが驚いた顔をする。確かに普段だいぶ抜けているウキョウの様子を見ていれば、そのような察しの良さがあるなど思いもしないだろう。
「でも尾行が失敗したとなると、次はどうするんです?直接聞くわけにはいかないですよね?」
「うう…ごめんなさい…」
「謝ることはありませんわ。サワさん、写真は撮れましたか?」
俯くサワにリカが問いかける。
「写真はいくつか撮影したんですけど、直前で動かれたり丁度死角になる場所でしか立ち止まらなかったりしてそれも無理でした。はっ!ウキョウさんもしかして尾行慣れしてるとか?!」
「サワ先輩なんですかその尾行慣れって」
「だってそれくらいガード固いんだもん!この前だってあの子が助けてくれなかったら絶対捕まってたもん!」
その時の事を思い出したのか、サワはぶるりと身震いした。余程のトラウマになったのだろう。
「そうですか…では尾行、及び盗撮はもう諦めて、何か別の案を考えなくてはなりませんね…」
ピントが合わなかったりブレてしまっている写真を眺めながら、リカはしばし思案する。
「写真が駄目となると……写真?そうですわ!写真ですわ!」
リカは勢いよく椅子から立ち上がる。
「撮影出来ないのなら以前撮った写真を使えば良いんです!」
「でもリカさん。ウキョウさんっていつも撮影者側だから映ってないんじゃ…?」
サワの疑問に、リカは自信に満ちた顔で答える。
「それはあくまでウキョウさんが撮影した写真。さんが撮影した写真を借りれば、きっとウキョウさんも映っている筈ですわ」
「なるほど!」
やっと状況が飲み込めたサワとミネは、ぽんっと手を叩いた。
「でもでも、ウキョウさんの衣装を用意するっていうのは先輩にも秘密なんですよね?写真を借りたらバレちゃうんじゃないですか?」
「写真自体は全員映ったものをお借りします。全体のコンセプトを決めるのに必要だと言えばバレませんわ」
「リカさんナイスですっ!」
打開策が見つかったことで場の雰囲気が一気に明るくなる。すると、タイミング良くが休憩室に入ってきた。
「あれ?まだみんな話し合いしてたの?ホールの掃除はもう終わったから、ここを片付ければもう今日は終わりだよ」
「さん丁度良いところに!以前のイベントで貴女が撮影した写真をお借りしたいのですが構いませんか?全体の雰囲気から衣装を考えたいので、出来れば皆さんが映っている集合写真があれば有り難いのですが」
「はい大丈夫ですよ。集合写真ならワカさんに渡そうと思っていたものがあるので取ってきますね」
はロッカーからアルバムを持ってくると、机の上に広げてページを指差す。
「これなんか使えるんじゃないですか?シンとケントさんがホールに出てきている時なので、4人とも映ってますし」
「………」
確かに集合写真ではあるが、これだと肝心のウキョウが映っていない。だがここでウキョウの名前を出すのも不自然だし、どうしたものか。
「えーっと……先輩、もっと他の写真もありませんか?参考にする写真は多い方がいいですし!」
「うんうん!出来ればお客さんと接してる様子がわかるのが良いよね!」
「それならこれとか?」
はいくつか写真を挙げるが、ウキョウが映っているものは見切れているものばかりで決定打に欠ける。
「…ウキョウさんってもしかして写真映り悪い?」
「ちょっとサワ先輩!!」
「あっ!しまった!」
サワがついうっかり漏らした感想は当然の事ながらの耳にも入る。
「ウキョウさん?もしかしてウキョウさんの写真が欲しいの?」
「あー……あ!あのね!撮影者だけ私服なのは浮いちゃうから、簡易的なマントとか、上着みたいなのを作ろうと思ってたんだよねー!」
「そっそうですわ!ですが本人に聞いたらイベントの事までバレてしまいますから、写真から服のサイズを割り出そうかと思いましたの!」
「それで私達ウキョウさんの映ってる写真を探してたんですよ!ね!」
慌てて取り繕うサワに助け舟を出すリカとミネ。その様子には首を傾げたが、とりあえずは納得したのかそれ以上の追求はしてこなかった。
「な、なるほど?でもそれなら写真なんて回りくどい事しなくても大丈夫だよ?大まかなサイズなら私わかるし」
「そっかそれなら安心!……え?」
「確か身長は185cmだって言ってたよ。服はメーカーによって変わるらしいけどLかLLだったはず…ウキョウさん実は結構スタイル良いから、手足の丈とかはちょっと考えて作った方が良いと思うな」
「は、はぁ…」
「ウキョウさん全身映ってる写真は……あった、これならわかりやすいかな?」
「ありがとうございます…?」
あまりにあっさりと必要な情報が語られ、呆気に取られる3人。
「どういたしまして。他に何かあれば、私の答えられる範囲でなら答えるけど…」
「とりあえずこれで十分ですわ。さん、この事はどうかウキョウさんにはご内密にお願いしますね」
なんとか立ち直ったリカがそう伝えると、はにこりと微笑んだ。
「もちろんです。それにあの子にも内緒、ですよね?当日のサプライズ絶対成功させましょうね!じゃあ私は着替えてくるので一旦失礼します」
この言い様だと自分もそのサプライズ対象に入っている事は気づいて居ないのだろう。とりあえず上手く誤魔化せたようだ。
「は~…危なかった…!」
「サワ先輩なんであんな事言っちゃうんですか!バレちゃったのかと本気で心配しましたよ…!」
「仕方ないじゃん他に思いつかなかったんだし!」
「でもあの様子だと本当の目的までは察して居ないようですからきっと大丈夫でしょう。そういう意味ではサワさんのお手柄ですわ」
「うううリカさん優しい…!ありがとうございます…!……そういえば、ってなんであんなにウキョウさんの事詳しかったのかな?」
ふと呟やかれたサワの疑問に、ミネとリカは顔を見合わせる。
「………」
「………」
もしかして、これは踏み込んではいけない領域の話だったかもしれない。そう察した二人は、敢えて口を噤んだ。