人に憧れていた神様の話
「もうウキョウは普通の人間なんだから、一度死んだら終わりなんだよ」
なんて、オリオンはよくウキョウを嗜めているけれど。それを言うなら僕たちだって同じことで。
神と呼ばれていた時は、全くわからなかったもの。
生きていると実感出来る、全身を巡る鮮やかな感覚。胸を焦がし、全てを投げ打ってでもそばに居たいと想う恋。そしていつか必ず訪れる死への漠然とした恐怖。
そんな一つ一つに触れて、僕たちは人間になっていく。
人に憧れていた頃にはわからなかった苦悩も、苦痛もたくさんあるけれど。それ以上に今が満足だと胸を張って言える。だから僕は僕がした事に、何も後悔はしていない。
でも君はどうだろう?
死を司る神として、僕とウキョウの我儘によって巻き込まれた君は?神として元の場所に戻ることも出来ず、人間になるという罰を与えられてしまった君は何を思うのだろう。やっぱり後悔しているのかな。君は強いから、もしかしたらそんな風に感傷に浸る僕をその感情ごと馬鹿だって一蹴してくれるかもしれない。そうだったら有難いな、なんて気弱な事を思ってしまうのは、きっと君の本当の気持ちを聞くのが怖いから。
神として世界の狭間にいた時から、何となく感じてはいたけれど交わることの無い存在。運命の導きでようやく合間見えた君は、想像していたよりもずっと鮮烈で強い子で。そんな君が、今こうやって僕と同じ場所に立って居てくれるのは本当に奇跡なんだって思う。そしてあの時はわからなかった感情が、今の僕の胸の中には溢れている。
あぁこれが多分、あの時僕が知りたかった想いなんだろうな。
つまり僕は、君が好きなんだろう。
人はいつか死んでしまうもの。
それは逃れられないもので、人以上に理解していると思っていたけれど。実際その立場に立つと、考えただけで胸の奥がじんわりと締め付けられる感覚に呑まれてしまいそうになる。でもそんな弱気な僕を、死神だった君は愛おしそうな顔で笑うんだ。
「あんたが憧れていた存在はそういうものなの。だからこそ、人は美しいんでしょ?」
僕よりもずっと死に近くて、何もかもを理解して、その上で協力してくれた優しくて強い君。死の恐怖を誰よりも知っているのにそうなる運命を選んでくれた、女神だった女の子。
もしも君がほんの少しでも僕と同じ気持ちを抱いて、付いてきてくれたのだとしたら。
きっと僕は世界で一番幸せな"人間"なんだろうな。